Ressentiment

祈り

 そうして叫ぶ度に行為は激化する。鬱憤をぶつけた最初の夜から、男達は何度もセシルを苦しめ続けていた。  その手段は何でも良かった。ある時は頬を張られ、身に着けていたベルトを鞭代わりに跡が残るまで打ち据えられる。またある時は薄い粘膜を撫でられ、肉棒で全身を犯された。  最早セシルが何をされるかは完全に男達の気まぐれに支配されていた。これから暴力を振るわれるのか、犯されるのか何をされるのか全く分からず、男達の手が自分へと伸ばされる度に逃げ出したいと思ってしまう程の恐怖に晒される。押し付けられる熱で上気した肌には切り傷や青痣と幾重もの暴行の痕跡が残る。それらを刻み込まれても、僅かに残った誇りを掻き集めてセシルはそれに耐え続けてきた。  だが人としての生活を奪われ、体力も気力も根こそぎ削られつつある状態で、男達の暴力に相対するのは土台無理な話だった。際限なく、何時間も、振り下ろされる暴力。其れに押し出されるようにして、セシルの唇からは少しずつ声が漏れ始める。無意識に上げられる悲痛な叫び声。嫌だ、やめて、何故、怖い。耐えようとする意識さえ整えることも許されず、強制的に引き出された人として当たり前の本音。  しかし男達はそれを聞くだけで、そこまでセシルを追い詰めたことに対する気が狂わんばかりの優越感を抱いていた。 「お前、最初は萎えてた癖に随分と淫乱になったもんだな」 「ひぁっ……そんなっ、こと……な……ぁあっ!」  否定の言葉にさえ嬌声が混じる様を男は嘲笑しながら腰を強く打ち付けた。痛みしか感じなかった行為も、今では奥を暴かれる度に足先まで痺れるような快感が走るようになってしまった。最も穢いものに自分が占領される感覚、それに伴う悍ましい絶頂。セシルにとって何もかも嫌だった。自身の無力さ、浅ましさを延々と突きつけられ、悔しさがただ募っていく。 「何だそのツラ、そんなに嫌か?」 「……っ」  満足げに問う男にセシルは沈黙をもって答え、真っ直ぐに男に相対していた。仮にセシルがどう答えても揚げ足を取られて責めが苛酷になることは目に見えている。  だがその沈黙でさえも男達にとっては一種の回答だ。感覚の浅ましい変化をセシル自身が恥じていることは、快感と苦痛に濡れた表情が言葉よりも雄弁に語っていた。未だ鼻につく誇りに、一人の男はあることを思いつくと、セシルの脚を押さえ込んだ。抱かれた直後の脱力した状態では抵抗された所で男達には大した影響も無かった。 「……今度は何をするつもりですか」  男達に問うセシルが懸命に冷静さを保とうとしているのは簡単に見て取れた。だが肩を震わせて荒い息を吐き、脚を下品に開かされている状態では彼の涙ぐましい努力も滑稽だ。 「そんなに怖がらなくてもすぐに分かるよ」 「い゛っ……!?」  男の手が下腹部に向かい、未だ熱を持っているセシルの陰茎を固く縛り上げた。過敏な部分を圧迫される激痛にセシルは強く目を閉じる。咄嗟に恥部へ伸ばそうとした腕は、あっけなく捉えられ、後ろ手に縛られた。施されている醜い処置が、貞操帯代わりであることをセシルは嫌でも理解し始めていた。 「なるほどな。いいこと思いつくじゃねえか」 「だろ? これでみっともなく勃つこともないだろうよ」  品の無い笑い声が部屋中に響く。一人の男の思惑を理解した周囲の男達は、セシルの間抜けな様を存分に嘲笑っていた。 「……そういうことを“余計なお世話”と言うのです」 「へえ。耳まで真っ赤にしてても、そんな減らず口叩ける気概だけは褒めてやるよ」 「馬鹿じゃねえのコイツ。ほら、さっさと試してみようぜ」  最早セシルは暴れて抵抗することも、秘密を隠すことさえも許されず、その肢体は本人の意思とは関係なく惜しみなく男達に捧げられていた。  唯一残された言葉による抵抗は、まだ獲物の生きが良いことを男達に示す手段にしかならない。散々に凌辱され緩く開いている後孔に男は肉棒を突き入れた。肉が割り開かれ、それに合わせて悲痛な嬌声が零れ始めた。それを聞いた男達の頭から背まで焼けるような興奮が貫いた。セシルが必死になって取り繕っている大人びた皮を剥ぎ、自分達に見せないようにしている恐怖心を白日に晒す行為。その柔らかな面を好きなだけ共有し、貶めることが出来る甘美を男達は存分に味わっていた。  セシルの内心の自由などこの山荘には存在しない。セシルが今迄大切に抱いていた考えも、嗜好も、信条も、愛も、男達が望むままに恐怖と絶望に塗り潰されようとしていた。  入れられる側のことを一切考えない乱暴な挿入でも過敏になった腸粘膜は快楽を拾っていく。 「抜いてっ……も……う、ぎっ!? ぁあ゛あぁあああっ!」  また絶頂に突き上げられる。セシルが苦痛と共に確信したその瞬間、締め付けられるような違和感と強い痛みが走った。その原因は嫌でも解る。その手のプレイに特化している貞操帯と違い、不衛生でささくれ立った縄は陰茎に噛みつくように深く食い込んでいた。 「うーわ、瞳孔開いてやんの。可哀想に」 「あ゛あ゛ぁあああっ! やめっ、やめ゛ぇ!? ぎっい゛いいぃ! 痛あぁあ゛あ!」  男のせせら笑いにも反応出来ず、セシルは逃れるように頭を振った。男として当然登ってくる感覚が堰き止められる度に、尿道が圧迫される痛みが走る。両腕を拘束されていなければ羞恥も何もなく陰茎に手を伸ばし、縄を外そうと躍起になる程の激痛だった。腕を掴んでいた男は死にもの狂いで暴れようとする手中の感覚に、セシルの余裕の無さを見た。 「その状態でガチガチに勃つのかよ。手に負えねえ淫乱になったもんだな」 「そろそろ下山した後に肉便器として職探しする準備でもしておいたらどうだ?」 「違うっ! ワタ、シは、インランでもっニクベンキでもない!」 「分かった分かった。ほら、感じなければ少しは痛くないんじゃない? 頑張れよ、愛島君」  男達は嘲笑しながらセシルの全身へと手を伸ばしていく。口蓋を撫で、腋を擽り、胸元に指を這わされるだけで今にも崩れ落ちそうな悲鳴が部屋に満ちた。セシルが口でどれ程に虚勢を張ろうと男達が少し抱いてやれば簡単に本音が表れる。もう既に躰の限界は目前だ。長時間かけて開発されきった躰にその責めはあまりに激し過ぎた。快感に溺れようとする躰の変化はまだ正気を保つ心を抉る。熱い吐息と共に零れた唾液を男は指で拾い、セシルの頬に丹念に広げた。  普段の粗雑な愛撫と異なり、男達は純粋に快楽だけを与える為にセシルの膚に触れていた。だがそれは決して愛情が所以するものではなく、躰を傷つけずにより多くの苦痛を与える為に過ぎない。拾う快楽が大きければ大きい程、陰茎の質量は増していき、その分苦しみも大きくなる。  男として最大の急所に与えられる締め付けに、セシルの瞳に望んでもいない涙が浮かんだ。絶頂までの間隔は目に見えて短くなり、痛みを感じる回数も急速に増加していく。そんな激痛の直後であっても変貌した躰は愛撫から快感を得て、萎えた陰茎の質量を再び増幅させていく。快楽と痛みの地獄めいた繰り返しは確実にセシルを追い詰めた。 「やめてほしいか?」 「は……い゛……」  ふと手を止めて発せられた男の問いに、セシルはほぼ無意識に本音を吐いた。嗄れた喉から絞り出された返事は喘ぎ声と泣き声が混ざった情けない声。それを聞いた男達は吹き出し、セシルは深い自己嫌悪に陥っていく。  未だ抵抗を止めようとはしない強い精神の隙を男達は快楽で巧みに刺激していた。無理矢理に流れ出る先走りが股を伝い漏れ、糸を引いて床へと垂れる。向けられる男達の視線は無遠慮にセシルの肢体をなぞった。  休むことも出来ず充血している目は潤み、褐色の膚は汗と掛けられた精液で斑に濡れていた。拘束されている長い手足は鬱血し、血の気が引いている。今にも絶えそうになる呼吸を肩で息をして繋ぐ度、縛られた陰茎が無様に揺れた。卑猥で哀れなその様は男達の情欲と優越感を掻き立てていった。 「お願いします許してくださいって土下座して言えば辞めてやるよ」 「よくもそんなことを……」  これ程までに追い込まれても変わらない意志が男達を睨む。生まれ持った立場からも、人としても到底出来る訳がない行為だった。これ以上無理だという妥協のラインを超えた要求。受け入れ難いことを命令され、ボロボロになるまで追い詰められ、屈服させられる。何度繰り返したら分からない茶番が再び行われようとしていた。  セシルという人間の人格も、価値観も此処では凌辱を盛り上げる一要素として貶められる。既にセシルは男達の幾多の要求を呑み続けていた。それでも新たに提示される要求を易々と受け入れることなど、セシルにはどうしても出来なかった。  そうして拷問は再開される。欲求を飲むまで終わらない地獄。信念を折り心も躰も歪めていく暴力がセシルめがけて際限なく降りかかった。限界まで昂ぶった体は絶頂に至ろうとし、その度にせき止められた尿道と圧迫される性器に激痛が走り、中途半端に熱を抱いた状態に戻される。その度に逃れようと暴れてしまう手首には縄が擦れ、傷口には血が滲む。  だがそんな痛みなど気にならない程の至上の快楽に塗り潰され、更にそれを凌駕する陰茎の激痛に絶叫する。男としての生理反応が、苦しいまでに高められた欲望の解放を求めていた。際限なく高ぶった躰は射精を伴わない不完全な絶頂を迎えるが、それは熱の発散には至らず、寧ろそれを加速させる結果にしかならない。  ただの寸止めよりもずっと酷い、何より残酷な生殺しが延々と繰り返される。苦痛と快楽が同時に襲い、セシルの間隔にとって二つが強制的に紐づけられていく。既に中途半端な絶頂を迎えながら痛みの予感に震え、焼けるような痛みを感じながら身を疼かせる滅茶苦茶な反応をセシルの心は取り始めていた。そのような惨い変化を受け入れられる訳は無かった。  だが苦痛も快楽も拒む術を持たないセシルはただその感覚を受け入れさせられるしかない。躰に触れられる度に精神が削り落とされ、確実に心が弱っていくのをセシルは俯いて床を眺めながら自覚していた。 「言ってみなよ。生意気な態度でごめんなさい。私を無様にイかせてくださいお願いしますってさ」 「文面変わってるじゃねえか」 「いやだっ……そんなこと……言いたくないぃ……」  精一杯の抵抗にも情けない吐息や喘ぎが混じる。拒む度に男達が欲求する文面は卑猥で下品なものに変わっていき、暴行も激しくなっていく。あの“愛島セシル”の神秘めいた外面を消し去る言動をさせる想像だけで、男達は満たされる支配欲に震えていた。 「割と頑張るね。じゃあもう少しキツイのも我慢出来るかな」 「賭けでもするか? あと一時間くらいで土下座に二万」 「それならあと三十分に僕も二万かな」 「う゛ぁっ!? なに、を゛っ! ふぎっい゛あっあ゛あぁあぁ!」 「愛島君あんまり動かない方がいいよ? 尿道ブジーなんて贅沢なものじゃないから、下手に暴れるとおしっこの穴ボロボロになるからね~」  男達はよりセシルを追い詰める為、尿道に太い針金を押し込んだ。止めどなく流れていた先走りが潤滑油の役割を果たしていたとは言え、ただでさえ塞き止められている陰茎に凄まじい痛みが走る。セシルの瞳孔が閉まり、不規則な呼吸が更に乱れた。 「ひい゛っ! こ……え゛、やだ……抜いっい゛いぃ!」 「そんなに嫌なら一回抜こうね~。はい、じゃあもう一回入れるからね。うわっ、まだそんな大きな声出せるなんて愛島君は凄いね。全部抜いてくれると思ったのかな? よくこの状況でそんな勘違い出来るね……?」  男はそのまま針金をゆっくりと出し入れしていく。その遅々とした動きに拡張の痛みが付随する。後孔拡張の記憶が蘇り、セシルは恐怖と激痛に押し潰されていった。 「ほどほどにしておけよ。かわいそーに。萎えてきてるじゃねえか」 「ごめんごめん。愛島君は気持ちいい方が好きなのにね」  そう言うと男は暫く放置されていた後孔に肉棒を突き入れた。 「今はいやあ゛あっ! 挿れなっあ゛ああああ゛あっ! 出すのもや゛めっ! あ、わあっあ゛ぁああ゛ああっ?」  前後を同時に犯され、セシルの脳裏に火花が散るような感覚が走った。躰を支えることさえ出来ずに男に体重を預けて再び襲い始めた快感を必死にやり過ごそうと耐える。  犯している男は半笑いでセシルの頭を撫でる。口汚く罵られるよりも、男達に弄ばれていると自覚させられるその行為をセシルは強く嫌っていた。だがそんな高尚な心情などすぐに動物的な激感に吹き飛ばされる。陰茎自体に与えられた拘束は、尿道の感覚と合わせてセシルを追い詰めていく。耐えようとする意識さえ飛ぶ程の痛みを少しでも逃がす為に、セシルは必死に悲鳴を上げた。その効果など高が知れている。寧ろその痛苦に満ちた叫び声は男達を悦ばせ、事態を悪化させていることはセシルにも分かっていた。ほんの僅かな冷却を求めて、火傷に塩水を摺り込むような無意味な行為。そんな自傷じみた惨めな行為にセシルは縋らなければならない程弱り切っていた。  何も分からなくなる寸前に激痛が襲い、無理やり精神を戻されるせいで辱められ、嘲笑されている自分をセシルは認識せざるを得ない。今までのように快楽も痛みも完全に意識を飛ばしてくれない。  どちらかにのめり込んで楽になることさえ男達は許さなかった。両方の中途半端な苦しみと屈辱が心を抉っていく。あまりに惨めで背徳的な感覚がセシルにとって深刻なトラウマになることは明らかだった。今後解放された所で、一生、絶頂を迎えようとする度に激痛の幻覚を、死ぬ程の痛みに至高の快楽をセシルは夢に見るだろう。それ程までに、苦痛と快楽は根本的には同じだと男達は丁寧に、そして容赦なく教え込んでいた。 「う゛ああ゛あぁああああ゛あっ! ひぐっ、もうっ、あっあ゛あああ゛あ! はずっし、でっ、あ゛っ、ぎゃああ゛ああぁ!」 「セシル君どうかな? 少しは言ってみようって気になったかな?」  何度目かの獣のような悲鳴を上げてまた痛みに引き戻されたセシルに非情な要求が繰り返される。それでも最早無意識的にセシルは首を振った。それを見た男はセシルの腫れあがっている陰茎へと手を伸ばすと、鈴口を爪で割るように扱き始めた。途端にセシルの躰は弾かれたように跳ね上がる。射精を塞き止められることで、無理矢理にでも絶頂に至ろうと躰の感度が跳ね上がっている。  そんな状態で過敏な部位を責められたならばひとたまりもなかった。どれ程強靭な精神や肉体を持っていようが関係の無い苦しみが全身を駆け巡る。射精を伴わない絶頂と最大限に締め付けられている陰茎の痛みが同時に襲った。思わず関節が外れそうな勢いで暴れようとしても、何十もの腕ががっちりと手足を拘束し、何の衝動も逃せない。至高の激痛と最悪の快楽が入り混じった衝撃がセシルを直撃した。 「んぎぃい゛いいい゛いい! もぅやだあぁあああ゛あ!! そこやだっ! いやですっやめでえぇ! あっあっああああ゛あ! ふっ……ぐ……ひぎいっ!! こんなっ、いやだっやめっお゛お! がはっ、あ、ああ゛ああああ゛ああっ!」 「うっわ喘ぎ声汚ねえなこいつ。もう頭おかしいだろ」 「こんなのに黄色い声上げて何万も貢いでる女が気の毒だな」 「最初から素直に言うこと聞いてた方がこの結果ならマシだったよね」  男はセシルの髪を掴み、顔を覗き込む。辛うじて瞳に力は籠っているものの、躰は危ういまでに痙攣し瀕死の状態だった。 「このままだとお前男として死ぬぞ」  男に促されセシルが視線を下へ向けると、快感と血が集まり真っ赤に腫れ上がったグロテスクな陰茎が其処にあった。自分自身のものとは思えない醜い其れは明らかに限界だった。最後まで意地を張り続けることもまだ出来たが、血を残さなければならない立場がセシルの脳裏を掠めた。自分だけの誇りと引き換えにするにはセシル自身の立場はあまりに重過ぎた。男達が飽きるまで耐えられなかった自分の弱さをセシルは嫌悪した。血が滲む程に唇が噛みしめられ、ゆっくりと開かれる。 「がぃ……し…」 「は? 聞こえねえよ」 「お願い……します……ゆ゛るして……くだ……さ…い……」  卑猥な装飾に彩られてない最初の文面を言ったのはセシルの最後の意地だった。それでもまたこの惨い責め苦に屈したという敗北感に打ちのめされていく。今のセシルは男達にとって唯一の娯楽であり、男達がセシルに飽きるまで耐え続けるということは無理な話だった。それでもどうしようもない無力感が胸を覆い尽くす。このままなにもかも奪われていく予感じみた恐怖がセシルを襲った。それでも男達は非情だった。 「おいおい。愛島君はなんでそんなに覚えが悪いんだ?」 「もう言い方変わったよな? 教えたことも言えなけりゃ土下座って言ったのも覚えられねえなんて大した皇子サマだ」  その言葉を聞いた瞬間、セシルの心が折れる前に意識自体が潰れようとする兆候を男達は見て取った。セシルの全身から血の気が引き、目の光が喪われていく。  その様を見た男達は怒りにも似た動揺に包まれた。  今のセシルの決断は日常に戻ってからのことを考えた末での決断だ。愛島セシルは、完全に屈服した訳ではなく、屈辱に塗れながらもしぶとく自身の未来を見ていた。その事実を男達はセシル以上に理解していた。彼は未だ何一つ諦めていなかった。だのにセシルの精神は男達の手の届かない場所へ向かいかけている。  そんなことは許されなかった。もっと他に、セシル自身が選択し、全ての未来を投げ捨てさせるような結果がある筈だった。  この玩具を此処で壊す訳にはいかない。端的に言えば潮時だった。男は舌打ちするとセシル自身を締め上げていた縄に手を掛けた。僅かに残されていた出口まで塞がれ見苦しく腫れあがった陰嚢が男の指へと当たる。 「締め付けキッツ、どんだけ感じてたんだよこの恥知らず」 「う゛……あ……ひっ、ぐっ、ああ゛ぁああああぁっ!」  男は吐き捨てるように言うと縄を切り裂き、勢いよく針金を引き抜いた。過敏な尿道が一気に擦り上げられる感覚に抑えられていた快感が爆ぜた。ドロドロと情けない音を立て陰茎に血が巡り始め、堰を切ったように精液が迸る。  ずっと取り上げられてきた純粋な快楽に、セシルは脳が焼けるような熱さを感じた。獣のような絶叫が至上の音楽さながらに男達の耳を満たしていく。抑圧され溜まりに溜まっていた白濁は火照った躰を穢していった。セシルは荒い息を吐くと安堵したようにゆっくりと目を閉じる。自身の精液に濡れたその表情は、陥れられている状況に不似合なあどけなさを湛えていた。  だが、そのような余韻に浸らせてやる程、男達の機嫌は良くなかった。自分達の考えついた責め苦が満足のいく結果に至らなかった鬱憤は部屋の空気を凍らせていく。男達は疲労困憊しているセシルを突き飛ばすと、輪姦を再開した。  髪を掴んで床を引き擦り、押し潰すように内側から下腹を突くと塞き止められていた白濁が際限なく流れ出る。尿道を精液が撫でる感覚だけでも耐えきれずに、セシルは嗄れた喉を震わせた。一回絶頂に至る感覚で、次の絶頂に至るまでの快楽を感じ、男達に犯される感覚まで加わる。それ程までに感覚を狂わされていながら、嫌と言う程刻み込まれた痛みの予感が完全に快楽に浸ることをセシルに許さない。  未だ残る余韻がいつ強まるか考えるだけでもセシルは気が狂いそうな程の恐怖に駆られていた。痛烈なまでの痛みが既に解放されている筈なのにフラッシュバックしていく。寧ろ髪を引かれ、殴られながら犯された方が、いつ痛みが襲うか分かるだけどれ程楽だっただろう。 「いい゛いぃ! もういいですっ、いいですから、やめでっ! あっ、あっあああ! いあ゛あああぁあ!」 「ぎゃあぎゃあうるせえな! てめえがチンコの縄解いて好きなだけイキまくりたいって言ったんだろうが!」 「俺達をバイブか何かと勘違いしてんのか?」 「お前が奉仕する側なんだよ? 股開けや!」  全身の力が抜けていく。男達の罵声が脳裏で意味と結びつかず、酷い騒音へと変わり始めた。悍ましい快楽と圧迫感、精液が迸る感覚だけが生々しく感じられている。セシルが今迄大切に抱えていたかけがえの無いものが破壊され、自分という存在全てが否定されているような気がした。  視界が深い闇に包まれていく。それを見た男は唇の端を歪めて嗤うと、床に落ちていたスタンガンへと手を伸ばす。暗闇に再び悲鳴が響いた。  こうして毎日、幾度となく、無理矢理刻まれる快楽に耐える為に性欲は歪に高まっていった。痛みと恐怖と快楽に浸けられる日々を送るうちに、男達無しでは欲の発散が困難になりつつあることに、セシルは気づいていた。薄い腹は常に男達の精液を孕んで醜く膨らんでいる。>  ここに囚われているしか方法は無くなる未来が間近に迫っていた。男に組み敷かれる瞬間、感じる絶望とは裏腹に躰は確かに歓喜していた。食欲や睡眠欲はどれほど渇望しても決して満たされること無く、性欲だけは拒んでも痛みと共に過剰なまでに満たされる、歪な暮らしが此処に在った。  このまま快楽に押し流され、元の生活に戻れなくなることが何よりも恐ろしかった。既に復帰までに相当な時間が掛かることはセシル自身が痛感していた。今更まともな食事を取っても胃が受け付ける訳がなく、気絶という形以外では眠ることさえ出来ない。暴力を振るわれる恐怖で抑え込まれなければ、躰の感覚が戻らない。叫び続けて声は枯れ、叩き込んだダンスさえ日に日に記憶から薄れていった。男達に触れられていないほんの僅かな時間でさえ、受けた凌辱の幻覚に苛まれ、恐怖と性感に心は見る影もない程に疲弊していった。  それでも、今も胸が潰れる想いで帰りを待っている人がいることをセシルは忘れなかった。  どうしても忘れられなかった。あと一度だけ逢いたいという願い。それだけがこの地獄でセシルを支えていた。国、仲間、使命、死ねない理由は山程ある。  それでも今、心から望むのは一つ。再び彼女の為に歌いたい。それだけの為に、セシルは精神を保っていた。  だからこそ男達が女に言及するのは口から出任せの煽りだと分かっていても、腹立たしく思わずにはいられなかった。彼女と手を取り、口づけを交わした記憶が支えていればこそ。  生きて帰る。常人であれば誰でも選ぶであろう死という逃げ道を自ら塞ぎ、彼は崩れ落ちる寸前で望みに縋って、死ぬより辛い現実を生きていた。  そして男達はその望みを手放す瞬間を、固唾を呑んで待っていた。今のセシルを支えるものなど男達は知る由もない。既に男達より余程酷な状態にセシルが居ようと、所詮逃げられては終わりなのだ。未来まで手離さなくては意味がない。セシル自身が手にしていた境遇を全て諦める瞬間。その時こそ自分達の元へとセシルが堕ち、望みが達成されるのだ。  麗しい肉体も清廉な精神もどれほど責め立てても飽きることはない。セシルが必死に耐えようとしていることは、嬉しい誤算だった。寧ろ痛めつければ痛めつける程に拒み悶える様は男達を予想以上にのめり込ませた。本来であれば絶対に手に入らない立場の少年が、自分達のような下賎な人間に追い詰められ堕落していく様。  それは閉ざされた山荘で唯一にして最高の娯楽だった。
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