カーテンコール・スクラップ

醜悪な男の話5

 僕はこうしてセシル君の私生活まで踏み入る割合を少しずつ大きくしていました。  セシル君の言動を不審に思った仲間達には適当な言い訳を聞かせていましたが、どうしても難しい時は僕が間に入って認識を歪める回数も増えていました。  それで何とかごまかせていたものの、セシル君の彼女には特に強い認識阻害を掛ける必要がありました。普通の恋人達と比べて共にいられる時間も少ないのに、相手の異変に気づける絆には涙ぐましいものがありましたが、まやかしの愛でしかセシル君と繫がれていない僕にとっては癇にさわりました。  だからせめてそれを笑い飛ばしてやりたいと子供じみた怒りに駆られた僕は必要な物を買い込んでセシル君を呼び出したのです。  僕の部屋の狭いベッドの上に鎮座している物を見たセシル君は大きな目を開いて、不思議そうに覗き込んでいました。セシル君がそんな反応を見せるのも無理ありません。もしかしたら実際に見るのは初めてだったのかもしれません。恐らくいろんな意味で恵まれた暮らしをしていた彼には必要のない物、出来の悪い風船のようなダッチワイフがそこにあったのでした。  雑に切りそろえられた人工繊維の髪に、マジックで書いたような顔、チェーン店の服屋で買ったワンピースを着せられた玩具をセシル君は人差し指で怖々と突いていました。 「あの……これは?」 「これはね、セシル君の〝恋人〟だよ」 「は……?」 「おっと、今は僕のことを考えなくていい。あの可愛らしい彼女のことを思い出していいんだよ。ほら、あの子がベッドで待っているじゃないか。僕のことなんか忘れて、二人きりで、ゆっくり、楽しんでおいで」  僕が言葉を紡いでいくうちに、いつものようにセシル君の瞳は濁っていきました。もう彼の視界に僕は映っていません。彼の頭の中にあるのはベッドにいる〝恋人〟のことばかりでしょう。 「ハルカ……」  セシル君はベッドの側に歩み寄るとダッチワイフの手を取って、まるで姫君にでもするように優美なキスを落としました。そのまま彼は玩具に抱きつき、首筋に何度もキスをしながら、軋む髪を幾度も梳いていました。 「ワタシの愛しい人、力を抜いてください。怖がらないで……。アナタの瞳は星の光、その夜空にワタシを映してください」  歯の浮くような台詞を吐きながらセシル君はワンピースのボタンを一つ一つ外し始めました。手元を一切見ずにダッチワイフの空虚な瞳を覗き込んでいるその手腕には明らかな慣れが感じられて、僕は思わず顔を顰めました。予想は付いていましたがセシル君の態度は、僕を恋人だと思い込んでいる時と酷似していました。  最初の日にセシル君が取っていた余裕のある振る舞いは、幾度も回数を積み重ね愛情を確かめ続けた自信に裏打ちされていたのだなと改めて思わされました。  しかしそのような優美な態度も安っぽい玩具の前でやれば滑稽な芝居に過ぎません。僕は存分に笑ってあげることにしました。 「本当にアナタはとても美しい。そんな存在を独り占め出来るなんてワタシは幸福なのでしょうね」  露わになったビニールの躰に何を夢見ているのか、セシル君は息を呑んで優しく囁いていました。幾ら愛を紡ごうと玩具からは何の返事もありませんが、幻聴でも聞こえているのかセシル君は僕には見せたこともないような愛らしい笑みを浮かべて何かしら答えていました。  床に落ちたワンピースの上にセシル君の服が重なり、骨張った広い手を這わせながら、文字通り風船のように膨らんでいる胸の頂点に吸い付いている姿。  それはもう必死に相手を求めていて、まるで相手を離さないよう縋っているかのようにも見えました。  僕も危うくそうなりかけたので分かるのですが、セシル君は自身の愛情で相手を飲み込んで一つになろうとするのです。それだけ彼にとって恋人とは特別な物なのでしょう。  存在の全てを確かめるような執拗な愛撫は、玩具で唯一現実に近い形の部位にも及んでいました。あくまで普段の性交の再現なのか、濡れるはずもないそこに手を這わせた後、指を啜っていたのは特に愉快でした。五感の全てで感じたいが故の行動だそうです。幻想の愛液はさぞ甘美な味がしたことでしょう。セシル君曰くダッチワイフはかなり濡れているそうですが、更にローションを垂らしてしっかりと馴染ませてあげていました。 「もう我慢できない……大丈夫、ですか?」  セシル君は頬をすっかり紅潮させて掠れた声で囁きました。  当然辺りは沈黙に包まれていましたが、彼には都合の良い返事が聞こえたらしく、ダッチワイフの頬に軽くキスすると、セシル君はへそまで届きそうなほどに猛っている陰茎にゴムを装着し、ゆっくりと挿入しました。 「ヒッ……い………!」  そのままセシル君はダッチワイフに強くしがみついて射精に至りました。三擦り半どころの話ではありません。そういえば彼の感度は僕が弄ったままでした。一番敏感な箇所に走った快感に耐えられなかったようです。  ビニールの躰が擦れる情けない音が響き、抱きつかれて空気が移動したのかダッチワイフの顔は更に醜く膨らんでいました。それでもセシル君は相手を満足させようと健気にも腰を動かし始めました。 「ふっ……ぐ、いい゙ぃあっ、あっあ゙あ! どうです、うっ、ねぇ……ハルカっ、ワタシのことだけを……ん゙んっ………ひ、い!」  絶頂に至った直後にあれほど腰を振れば最早痛みさえ覚えそうなものですが、恐らくあれが元来のセシル君のペースだったのでしょう。情けない喘ぎ声を出しながらも相手とコミュニケーションを取ろうとするその姿勢も非常に愛情深く、高潔で、滑稽でした。既にセシル君は何度も射精しているのに更に相手に奉仕していてそのせいで自分を連続絶頂に叩き上げているのです。  彼は既に俯いているので顔こそ見えませんが、最早抑えられない嬌声と耳まで赤く染まっている姿を見ればどれほどの興奮に呑まれているのか一目で分かりました。  僕は腹を抱えて笑いながらその姿をカメラに収めていました。数分もしないうちにセシル君は溜め込んでいた白濁を搾り取られて、それでも必死にダッチワイフ相手に腰を振っていましたが、彼の陰茎は既に萎え始めていました。  恐らく今までならばセシル君は僕に見せてくれたような持久力で行為を続けていたのでしょうが、今の彼にそんなことが出来る訳もありません。漸く陰茎を引き抜いて息も絶え絶えの状態でゴムの始末をしている後ろ姿には哀愁が漂っていました。掠れた声で恋人へ謝っているのも何とも悲しく、そのような状態に追い込んだ当人である僕でさえ涙を誘われます。僕はそっとセシル君に寄り添うと、彼に掛けていた暗示を解いてあげました。途端に彼の目の焦点が合い、血の気が引いていく様は何度見てもとても切なくて美しいものです。 「――ワタシは、今まで何を」  セシル君は先ほどまで恋人だった玩具を見て、言葉を失っていました。自分が今まで何をしていたのかはっきりと自覚したようです。激しく肩が震えていたので嫌な予感がした僕がポリ袋を取り出すと、セシル君はそれを引ったくりその場で嘔吐してしまいました。吐瀉物の嫌な臭いが辺りを漂い、セシル君の体液の臭いと混じり合います。酷く咳き込んでいたので背中を撫でてあげると、彼は僕の手を強く振り払いました。 「やめて! 何の為にこんなことを! よくも、何故こんな……」 「そう落ち込まないでよ。中々面白い見世物だったよ」 「ワタシはアナタの見世物ではない! アナタに笑われる為に愛し合っていた訳ではないのに……」 「愛し合っていたってあのダッチワイフとかい? そんなに気に入ったのならあげようか。あれ使い捨てらしいけど」 「いりません!」  いい加減悪臭に耐えられなくなってきたのでセシル君の持っていた袋の口を縛りながら適当に答えていたのが良くなかったのか、彼はかなり怒っているようでした。 「そんなに喚かなくてもいいじゃないか。ほら、こんなに楽しんでいたのに」  僕は固定していたカメラを操作して撮っていた映像を流してあげると、セシル君は目を見開いて絶句してしまいました。自分の甘い囁きや嬌声、行為中のあらゆる肢体をまざまざと見せつけられるのは初めてだったのでしょう。  こうして見返すと、ただの玩具相手に本気で性行為に及んでいるセシル君の姿はいっそ不気味で、それと同時に何とも愚かで可愛らしいものでした。 「ねぇ、セシル君って随分と喘いでいるけどそれは僕と付き合うようになってからかい? それとも元からこんな感じなのかな。おっと、また吐かないでくれよ。僕にそういう趣味はないんだから……」  僕が画面から目を離してセシル君の方へ視線を向けると、彼は僕に向かって拳を振り上げている最中でした。  流石にその時は僕も命の危機を感じ、慌てて暗示をかけ直しました。恐らく彼はこのまま僕に嬲られることに耐えられなくなっていたのでしょう。  幸いすぐに暗示は効いてセシル君はその場に倒れて死んだように眠り始めました。彼の認識を弄るとか咄嗟にそんなことをする余裕は無く、意識をシャットダウンさせるのが精一杯でした。正に間一髪。  ここまでされる理由は分からなくもないですが、あのセシル君がこうして暴力に訴えようとしたのは少なからずショックでしたし、今後僕の寝首でもかかれたら洒落になりません。  普段は僕の支配下にいるとはいえ、今はまだ社会的にはセシル君の方がずっと強い権限を持っているのですから。流石にこのような事態を黙って許す訳にもいきません。僕は意識の無い躰を丁寧に拘束しました。  長時間の拘束に耐えられるように内側にクッションの付いた手枷と足枷を彼の手足に装着し、ベッドの四隅へと繫ぎました。ここが僕の狭い家で良かったと思わずにはいられません。  普段使っているホテルだとベッドが広すぎて、幾らセシル君のスタイルが良かろうが枷の長さが足りなくて大の字で拘束するなんて真似は出来なかったでしょうから。 「ほら、セシル君。起きて」  そう声をかけると、セシル君は低く呻りながら薄く目を開けました。僕の姿を瞳に映した瞬間、何度聞いたか分からない金属音が響いてセシル君が暴れようとしているのが分かりました。ただ、いつもと違っていたのはその金属音がいつまでも続き、合間に僕への激しい罵りが吐かれていたことです。  流石に愛しい彼女との行為を笑いものにされたのは余程堪えたのでしょう。ですが、許さないとか、解放しろとか、嫌いだとか、そんな憎悪に満ちた内容をあれほど穏やかだった彼が言っている姿は少々見苦しいものでした。 「煩いよ。別にこの映像は公開なんてしないから安心して。でもこれ以上騒がれたら僕だって気が変わるかもしれない」 「……どうしてこんなことするのですか? 何故ここまでワタシを傷付けるのです」 「煩いって。君の携帯からさっきの映像を彼女さんへ送ってあげてもいいんだよ」  そこまで言うと漸くセシル君は口を閉じました。彼の瞳は悲しみと怒りで激しく震えていましたが、僕から目を逸らすことはありませんでした。 「これから僕が聞いたことだけ答えるんだ。いいね」  そう声をかけると、セシル君は僅かに躊躇した後に頷きました。 「さっき僕を殺そうとしただろ。違うかい?」 「……いいえ、っ!」  セシル君が答えた瞬間、僕は彼の顔を打たなければなりませんでした。そんな余りにも見え透いた嘘で誤魔化そうとした彼の精神が気に障ったからです。 「最初に暗示を解いてあげた時以外、君はいつも僕から逃げだそうとしてたよね。でも今日は殴ろうとしてた。でも賢い君なら分かるだろう? 僕を殴った程度じゃ何も解決しないって。怒りに任せた行動にしてはやけに君は冷静だったんだよ。もう暗示に掛けられるのは嫌だったんだろう? 流石にここの構造も覚えてきた。僕を殴った隙にキッチンの包丁でも盗るつもりだったのかな?」 「………………」 「躰が震えているよ。そうだろう、殺すしかないって分かっていても恐ろしかったんだね。良かったじゃないか。間違いなく世間にバレていただろうし、幾らセシル君でも殺人を揉み消すのは中々難しいと思うな」 「…………違う」 「そんな悲しそうな顔をしないでくれるかな。被害者面って言い換えてもいいね。僕は君を傷付けたかもしれないが、君も僕を傷付けようとした時点で同罪なんだよ。いや、セシル君は暴力を振るおうとしたから君の方が罪が重いんじゃないかい」  物わかりの悪い彼の柔らかな頬を何度も打ちながら、僕は丁寧に教えてあげました。もうこんな真似をされては僕も困るのです。夢を実現させる前に怪我をしたり、死んだりしていたら笑い事では済みません。 「……ワタシが悪かったと言うのなら謝ります。二度とあんなことはしません。だからアナタもやめてください。何がしたいのか分かりませんが、もう充分でしょう。……ワタシに何か恨みがあるのなら教えてください。これ以上互いに傷付けあっても何の意味も無い」  挙げ句の果てにセシル君が言い出した内容は僕を心底呆れさせました。セシル君に何をすれば充分なのか、どんな行為に意味があるのか、いつまでこの行為を続けるのか、全て決めるのは僕です。  そんなことすら理解出来ないでいるとは思いませんでした。この逢瀬の主体は僕なのです。セシル君には拒否する自由はありません。セシル君は僕にとって愛らしい恋人であり、道具であり、夢への道筋なのです。それは未来永劫変わりません。セシル君にはいい加減身をもって教え込む必要がありました。これまで優しくし過ぎたのも良くなかったのでしょう。 「これからセシル君に罰を与えるね」   僕は以前から用意していた物を戸棚から取り出しました。本当ならもう少し後にする予定だったのですが、今のセシル君には罰として充分機能する筈です。セシル君の腹の上に腰掛けると、彼は苦しげに呻きました。無闇に暴れられては本当に危ないのでしっかりと体重を掛けなくてはなりません。そのまま僕は傍らに道具箱を置いて、その中から太い針を取り出しました。するとセシル君の顔がひどく引き攣りましたので、安心させたくて僕はにっこりと微笑んであげました。 「大丈夫だよ。目を突くとかじゃないからね。NGになる仕事は増えるだろうけど、そこはまあ、僕が上手く誤魔化しておいてあげるよ」  出来る限り優しく語りかけてあげているのにセシル君は首を振るばかりでした。ですがここで機嫌を取り過ぎては罰になりませんので、僕はそのままセシル君の胸元へと手を伸ばしました。教育の成果か以前より質量が増した乳首を摘まむと、彼は小さく悲鳴をあげます。  そのまま完全に勃起するまで弄ってあげました。以前のセシル君は全体的に感度が鈍かったので開発は大変でしたが、特に乳首は何も感じていなかったので本当に苦労したのです。暗示を何度も重ね掛けして、怪しい薬まで注ぎ込んで面倒を見てあげたことを僕は懐かしく思い出しました。今ではすっかり立派な性感帯になってくれたので、弄られるうちにセシル君の陰茎も元気を取り戻したようです。僕の腰に先走りに塗れた亀頭が当たるので、思わず笑ってしまいました。  セシル君もすっかり頬を紅潮させていましたが、やはり僕の手に握られている針が気になって仕方がないようで、発情したまま怖がっている姿が愛らしくて仕方がありません。完全に勃起した乳首に僕はその針先をピタリと押し付けました。 「じゃあいくよ。……覚悟はいいかい」  セシル君が何か答えようとする前に、僕は針を思い切り刺し貫きました。 「ゔわあぁあああ゙あ゙ぁっ⁉」  躰を必死に暴れさせようとするセシル君を僕は強く押さえつけました。やはりいきなり躰に穴を空けられるのは痛いのでしょう。それが敏感極まりない部位ならば、どれほどの激痛が駆け巡っているのか想像したくもありません。ですが僕は腰に熱い粘液が掛かったのをはっきりと感じました。浅ましいことに、射精寸前まで高ぶっていた躰は性感帯への刺激を受けて絶頂に至ったようです。清廉だった彼がそこまでいやらしく変わり果てているとは思いませんでした。僕は半ば呆れながら針を引き抜いて、空いた穴にピアスを押し込みました。キャッチを締めている間もセシル君は痛みに悶えて、冷静さをかなぐり捨てて泣き喚いていましたが、僕に同情心は湧きませんでした。 「まだ一個目なのにそんな叫ばれても困るなぁ。ほら、頑張って」 「ああっ! まだって、それは……ヒッ! 嫌だ、嫌です! やめてっい゙やあ゙あ゙あああぁあっ‼」  もう片方の乳首へと針を刺し貫くと、余程痛かったようで再び僕は全体重でのし掛かるようにしてセシル君を押さえ込まなければなりませんでした。ですが腰に当たっている堅い物の質量は変わっていません。一度出したというのに与えられた衝撃で再び勃ちあがっているのです。 「本当に煩いよ。しかしこれ罰になってるかい? セシル君随分気持ちよさそうだけど」 「そんなことはありません! アナタがそう仕向けているだけです!」 「よく言うよ。さて、調べてもよく分かんなかったから適当に付けたんだけど、案外それっぽく仕上がるものだね」  当たり前ですがピアスが入っているのでセシル君の乳首は勃起しているかのように膨れていました。そっと撫でてあげると先ほどまで抗議しようと喚いていた声に嬌声が混じり始めます。それでも痛みは続いているようでセシル君は眉間に皺を寄せて呻き、息を荒げていました。 「でもまだ元気そうだね。それなら今日のうちに此処にも開けられるかな?」  僕が腰に当たっている陰茎に手を這わせると、セシル君の顔から一気に血の気が引いていきました。痛みも快楽も忘れ去ったかのように、衝撃に打ちのめされている姿は僕を満足させました。それほど驚いてくれるなら罰としての効果もありそうです。 「やめてください。……これ以上ワタシの躰を傷つけないで」 「うん。それはセシル君の信仰に依るものかな? 神に捧げる躰だから穢さないでほしい、と。中々涙ぐましいけど、そんなのもう無駄だと思うね」  僕はそう言いながら動けないでいるセシル君の後孔に指を呑ませました。温かな肉の感触が僕の指を食むように包み込みます。僕がそのまま指を動かすと、セシル君は歯を食いしばって声を堪えるのでした。 「こんな風に僕に好き勝手にされている状態で? ご覧よ。こうやって君の躰は男を受け入れてるというのに、まだ聖遺物気取りだなんて笑ってしまうな。今更穴の二つや三つ開いたって大した違いじゃないさ」  図星だったのかセシル君は咄嗟に言葉が紡げずに、悔しげに目を伏せました。  僕は震えている睫を見ながらベッドから降りてセシル君の脚の間に躰を滑り込ませました。持ち主がどれだけ恐怖を感じていても、行為の余韻でまだ勃起している陰茎は僕の目の前で次の衝撃を待ちわびているようでした。 「どうか考え直してください! 謝れと言うのなら謝ります、もうアナタを拒んだり逆らったりもしませんから……っ!」  恐怖に歪んだその顔が余りにも可愛らしかったので、少し陰茎を扱いてあげるとそれだけで過敏に成り果てた彼は喉を見せて震えているのでした。 「今更そんなに騒いでもねぇ。乳首も気持ちよかったみたいだし、此処でもきっと感じちゃうだけだと思うよ」  僕は亀頭の下に針を押し当てました。セシル君の熱い膚に冷たい針が触れている光景はそれだけで非常に淫靡で、情欲を誘われます。  セシル君の懇願する声がずっと響いていますが僕に取っては、それは喫茶店で流れている心地よい古典音楽と何も変わりはしませんでした。  針を彼の堅い肉に突き刺した瞬間、部屋を満たした悲鳴を僕は一生忘れられそうにありません。  痛みと快楽に灼かれた声は非常に甘美でした。針を引き抜いてピアスを押し込んであげると、それは蛍光灯の明かりを受けて美しく輝きました。ある意味一国の未来を背負った部位に僕の証を刻んだのです。セシル君の堕落の象徴と言ってもいい光景でした。静かになったので顔を覗き込むと、あまりの感覚からかセシル君は意識を失っていました。ですが、だからこそ僕はその姿をじっくりと眺めることが出来ました。褐色の膚に輝くピアスは美しく映えており、気品あるあどけない寝顔とのアンバランスがとても歪で素晴らしいものでした。それにここまで躰を傷付けられればセシル君も不相応な言動は慎むでしょう。これで僕の道具としての自覚をより強く持ってくれれば幸いです。  
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