兎角して彼は堕つ

 その仕事は最初から普段とは異なっていた。  その日、仕事を全て終えたセシルは午後からオフの予定だった。久しぶりの空いた時間に何をしようか胸を弾ませて帰ろうとした瞬間、見慣れない男がセシルの元へと駆け寄ってきたのだった。 「愛島さんですよね? よかったぁ……」 「Yes.確かにワタシは愛島セシルといいますが、何かありましたか?」 「それが事務所から急に仕事が入りまして、申し訳ありません。これからすぐスタジオまで移動お願いします!」 「仕事?」  セシルは咄嗟に携帯を見たが事務所からそのような連絡が入っている様子は無い。 「あの、事務所から連絡は……」 「それだけ急な仕事なんです! 急いで!」  怪訝な顔をするセシルに対し、男は腕を掴むとセシルを強引に引き摺って行った。 「これから行うのは雑誌の撮影のお仕事なんですが、先方が肝心のセシルさんに連絡することを忘れていたようで。事務所へは僕が色々伝えてありますから」  男は人気のない廊下を早足で歩きながら説明をしていたが、セシルはそんなことよりもやたらと強引な男の態度が若干癇に障っていた。今でも強く掴まれている腕が痛い。固く閉じられたドアの前で男は急に足を止めると、セシルの荷物をひったくった。 「……っ ワタシの荷物です! 返しなさい!」 「大丈夫です。愛島さんの荷物は私がロッカーに入れておきますから。仕事がすみ次第鍵を渡しに戻ります。あとこれ、愛島さんって昼食も取ってないですよね。これ飲んで早くスタジオ入りしてください」  男はセシルに栄養ドリンクを投げ渡すと、そのままセシルの荷物を持ったまま走っていってしまった。 「一体何なのでしょう……」  誰も居ない廊下に一人取り残されたセシルは一先ず携帯で時間を確認しようとして、荷物の中に入っていることに気づいた。名前こそ見えなかったが一応関係者証は首に下がっていたことから、あの男はここの社員なのだろう。鍵を渡しに来るという言葉を信じる他は無い、今は目の前の仕事を終わらせることしかセシルに出来ることはなさそうだった。渡された栄養ドリンクはセシルが見たこともないブランドだったが、それを一息に飲み干すとセシルはドアを開いた。 「愛島さん! お待ちしておりました。すみませんが早速衣装に着替えて頂いて……」 「分かりました。今回はどのような雑誌の撮影なんですか?」  セシルを出迎えたスタッフは一瞬だけ不可解そうな顔をしたが、セシルが気付くことは無かった。 「雑誌……? ああ、そんなことより時間がないです。今は衣装を。コンセプトもそれを見れば分かりますから」 「えっ? ちょっと……!」  そのままスタッフはセシルを押し出すようにして衣装室へと案内した。 「必ず下着まで脱いでから着てくださいね」  スタッフがそう言うと扉代わりのカーテンが閉められる。  下着まで脱ぐとは水着の撮影か何かなのだろうか。言われた通りに服を脱ぎ、全裸になるとセシルは用意された衣服を身につけた。  だがそれは何をどう考えてもおかしな格好だった。  明らかに布面積の狭すぎる上着は、肩と腕だけを覆う黒い布地と首周りだけシャツ状になっている妙なもの。それと脚全体を覆う長いニーハイソックスをガーターベルトが繋げている。蝶ネクタイを身につけ、黒いラバー製の手袋を嵌め、最後に兎の耳がついたカチューシャを嵌める。  それだけが彼に用意されていた衣装だった。ちょうどバニーガールの布地で覆われている部分とそれ以外を逆転させたような格好。  男であるセシルがバニーガールの服を着るのもおかしいが、その逆で恥部を何一つ隠せていない卑猥な格好を着ている今はもっと異常だった。幾らなんでもこんな格好での仕事は受け入れられる訳がない。 「何かの間違いでしょうか……?」  一旦私服に戻ろうと床を見たが、足元に畳んでいた服は丁度スタッフが下から手を伸ばし回収しているところだった。 「待ってください。あの……!」 「愛島さんお疲れ様です。着替え終わりましたか?」 「すみません。着替えはしたのですが、衣装が間違っているようです。ワタシの服を返してください」 「いえ、その服が今回の衣装ですよ。間違いなく」 「うわっ!」  唐突にカーテンが開かれ、思わずセシルは手で前を隠した。だがスタッフはそんなセシルに対して眉一つ動かさず、腕を引いて衣装室からスタジオへと引き摺り出す。 「やめてください! 離して!」  躰を隠しながらの抵抗出来ることなど高が知れている。 セシルは殆どされるがままに引きずり出された。  だがそれとは別の違和感も彼を襲っていた。躰に力が入らないような気がしてならない。しかしそれを詳しく検討する余裕も無く、卑猥そのものな恰好でセシルはスタジオに到着した。  拍手と目線がセシルを包む。スタジオにはカメラマンと撮影スタッフらしき人々の他に黒スーツの男達が多数たむろしていた。当然セシルのような恰好をしたものは一人もいない。モデルがセシル一人だとすれば明らかに異常な人数だった。 「本当に来た……」「可愛らしいウサギちゃんだ……」「見え隠れするタトゥーがまた……」  囁かれているざわめきの気色悪さに全身の膚が泡立つ。  明らかにセシルを品定めし、欲情する目。これはまともな仕事ではない、そもそも正規の仕事かも怪しいとセシルの疑惑は確信に変わった。 「帰ります。今すぐワタシの服とロッカーの鍵を返しなさ、い゛ッ」  だがその瞬間、背後から突き飛ばされて撮影スペースにセシルは倒れ込んだ。うつ伏せで四つん這いの体勢に周囲の男達からは笑い声が上がる。しかしセシルはそれへの怒りを感じる前に、自身の感覚の異常に驚愕していた。痛みを伴うべき倒れた衝撃はそのまま胃が騒めくような熱へと置き換えられていた。視線を僅かに落とせば半勃ちになっている自身が見える。感覚が歪んだ心辺りと言えばあのドリンクしかない。  何か盛られたに違いなかった。最初から全て騙されていたのだと気づいた時、シャッター音が響いた。 「ワタシを撮らないで! 今すぐやめてください!」  その場で振り返った瞬間、再びシャッターが切られる。 「はい、自分から顔とケツ穴同時に晒して本人認証構図ありがとう?! これでこの淫乱バニーがセシル君って皆に分かるね」 「そんなっ……!」 「これから僕達の言うこと聞かないとこの写真ばら撒くからね。事務所の力でもみ消したところでこの恰好が広まった事実があるのは流石にマズいんじゃない?」  しかし写真に関してはセシルにとって明確な弱みとは言えなかった。体調が戻った時に記録媒体を破壊して逃げるか、最悪逃げ出すのが精一杯でも事務所の人々に頼れさえすれば充分に対処出来る問題だ。写真は苦痛以外の何物でもないが、それが広まったという事実さえ不可能を可能にする事務所は消し炭に出来ることをセシルは知っていた。  だがカメラを持った男はそれに気づかず、鼻歌でも歌いだしそうな調子で続ける。 「あとはそうだな……。帰るってこの人数相手にセシル君一人で抵抗出来たらの話だよね。別にいいけど何されても知らないよ」  どちらかと言えば此方の方がセシルにとっては性急な問題だった。厳重に鍵を掛けられた扉の前には大人数の男達がいる。確かにこれを今の体調で潜り抜けるのはかなり困難と言えた。外部からの助けもこのスタジオの位置からして期待は持てない。少なくとも今どうにもならないのは事実だった。 「……卑怯です」  脚をしっかりと閉じ少しでも膚を隠そうと必死になっている姿は生娘にも似て意図せずとも男達を煽る。 「俺達の戦略勝ちってやつだよ。分かったら観念して撮影頑張ってね」  誇らしげにカメラを構えながら言う男をセシルは憎らしげに睨みつけた。 「じゃあまず手をどけようか。折角の衣装が台無しだよ」 「…………」  だが男はそれを無視して平然と指示を出していた。セシルも視線を逸らすと、緩慢な動きで腕を動かし始める。  足は閉じたままで腕だけを動かし僅かずつ膚の見える下半身と、無防備に晒されている上半身とのギャップに男達の視線が集中する。男達を悦ばせるのは癪だったが、少しでも長く時間を稼いで逃げ出すチャンスを窺うしか方法は無かった。  セシルは少しでも気を抜くと早まる呼吸を抑えながら、羞恥に耐えていた。だが自身を取り巻く欲情の中に別の感情が混じっていることにセシルは気づいていなかった。何回かシャッターを切った男はため息をつくとカメラを床に置く。 「い゛っ、ぎゃあ゛ああぁあ゛あぁああ」  不意に躰を襲った衝撃にセシルは絶叫した。思わず視線を向けると床に備品として置いてあった三脚を男は掴み上げていた。  それで殴られたということは理解したが、それに伴う感覚はまさに異常だった。盛られた麻薬は完全に効力を発揮しており、狂わされた感覚へと直撃した痛みと重い快感が電流でも流されたかのように駆ける。 「お前が安っぽいストリップで時間稼ぎしてるなんて、こっちはお見通しなんだよ。次くだらないことしてみろ。イキ潮噴き上げて気絶するまでぶん殴って晒し者にしてやるからな?」 「おあ゛っ! いぎぃっ うっ! やめ、え゛っ! あ゛っ、うぁあ゛あぁああ゛ぁ!」  背中を打たれ身を捩れば腹に重い衝撃が走り、身を縮めれば肩を殴られる。その場で取った体勢に応じて無防備になった箇所を男は決して見逃さなかった。鈍い音が響き、むき出しの膚に青痣が刻まれていく。だが確実に躰は傷つけられているというのに、それに伴う筈の痛みはそのまま別の感覚に挿げ替えられていた。男が三脚を振りかざす度に先走りが散り、ニーハイには卑猥な染みが浮かび始める。 「その辺にしてあげなよ。あまり傷つけては台無しだ」 「あっ、すみません……。つい……」  背後の集団から掛けられた言葉に男は笑顔で答えると三脚を投げ捨てた。セシルは躰を丸めて咳き込んだ。全身が熱と殴られた衝撃で疼いている。 「うぐっ ……う……っ……」  それでも立ち上がって逃げようとした瞬間、襲った快楽に呻き声が上がる。恐らく殴られた際に脚を痛めてしまったらしかった。今にも絶頂を迎えそうな状態なこの躰はどれほどの痛みを追わされているか、そう考えた時セシルは事態が予想以上に深刻なことを理解した。 「セシル君、今何しようとしてた?」  話が終わったのか振り返った男は再び罰を与えようと三脚を手に取った。咄嗟にセシルが腕で躰を庇った瞬間、背後の集団から不満げな声が上がる。それを聞いた男は小さく舌打ちすると、カメラを手に取った。 「皆優しい方々で良かったね。……じゃあ撮影に入ろうか。折角立ってくれたんだから何かポーズでもとってくれる?」 「…………」 「返事」 「……はい」  幾ら背後の集団からの制止があるとはいえ、抵抗を続ければ従うまで殴られるに違いなかった。頭は殴らないように加減していたようだったが、手元が狂えば死も視野に入る。  既にこの躰では走って逃げることさえ出来ない。これ以上の負傷を避ける為にセシルは従う他なかった。何度かしたことがある撮影の仕事を思い出しながらポーズを取る。だが恰好がこの卑猥なバニー着ではどんなモデルでも様になるわけがない。寧ろそのギャップがより悲惨だった。 「音楽だけじゃないお仕事もちゃんと頑張ってたんだね。頑張ってポーズしてて可愛いよ」 「セシル君ってチン毛剃ってるんだ。ちゃんと手入れしてて偉いねぇ」 「顔と同じくらい先っぽが真っ赤になって……淫乱な子だ」  男が指示を出しポーズを変えさせる度、背後の集団は囁き合い満足げに微笑んでいるのは気味が悪い。よく見れば幾人かの男はセシルも見覚えのある芸能関係者やスポンサー企業の重役達だった。セシルの仕事に関わりながらこんな計画を練っていたのだと思うと吐き気が込み上げる。 「ねぇセシル君聞いてる? そんなスカした感じじゃなくてさぁ、もっと手を頭の後ろで組んで脚開くとかしてみてよ」  カメラマンの男の発言にセシルは軽蔑しきった目線を向け、腕を上げて指を組み肩幅まで足を開いた。明確に拒絶の意志が窺えても、寧ろだからこそ男達に媚びるような卑猥なポーズは興奮を煽る。隠すことも許されない膚は容赦なく男達の前に晒されていた。 「腕をもっと上げて……そうそう。腋が見えるように。ああ、嫌そうな顔も可愛いなぁ」 「でも変だな。体は反応してるみたいだ。発情期かな?」 「それにしてもあの様子じゃ……元々そういう性癖でもあったのでは?」  降りかかる嘲笑にセシルは音が鳴るほど歯を食いしばる。  その感情さえ容赦なくフィルムに収められていった。セシルは男達の顔を遠目に見ながら、全員を記憶に刻み込んでいた。到底許すことなど出来ない。このような卑怯者達を野放しにするつもりはセシルになかった。 「また気が散ってるよ。そんな怖い顔しないで……そうだ! 後ろ向いてごらん」  男はカメラを置いてセシルに近寄ると、唐突に後孔に指を押し込んだ。侵入を許したことなどない場所に与えられた激痛に思わずセシルは声を漏らす。 「うわあぁああぁあ゛ がっ……あ゛! 何、をっ!」  そのまま指で穴を広げられると、セシルは床に膝を付いた。広い背が丸まり、薬でもごまかせない痛みが如何に辛いかを伝えている。 「あっ、もしかしてセシル君処女だった? ごめんねぇ。いかにも経験ありますみたいなツラしてるから勘違いしちゃったよ」 「やめて……くださ、い。気持ち悪い゛っ」  微塵も気持ちの籠っていない謝罪をしながら、男は指の本数を強引に増やす。未だ痛みの強く残る場所にアナルビーズを押し込んだ。指とは全く異なる感触と温度が狭い内部を抉る。脂肪の無い尻には、異質なほど可愛らしい尻尾が付いているのが見えた。ビーズの持ち手に付いているふわふわとした装飾は、激感に耐える為身悶えする度に無様に揺れ動く。 「大事なパーツを忘れてたよ。もっと可愛いウサギちゃんになれたね」 「……っ……は…………」  甘い鈍痛が下腹部を貫く。返事をする気力さえないセシルの姿を男は喜々として写真に収めた。躰は崩れ落ち、四つん這いで腰だけ持ち上げた卑猥な姿勢を取らされていたが、そんなことに気を留める余裕は完全に失われていた。  股の間からは完全に勃ち上がり、先走りを流している陰茎が見える。その向こうには見知らぬ男達がセシルへと淫猥な目線を向けていた。こんな男達に恥部を晒すという非日常、そんな状況下で興奮していると自身の躰から突きつけられていた。 「表情固いよ。笑顔笑顔」 「笑顔……なんてっ……出来ません……」 「出来ない? これは仕事なんだよ? 返事は肯定以外言うんじゃねえよ」  脅すように見せられた三脚に引き攣った笑みをセシルは無理矢理作る。脚を包んでいるニーハイを脱げば幾つもの打撲痕が浮かんでいるだろう。  狂わされた感覚で気力は散り、激痛で物理的な抵抗も封じる。男達が作り上げた見えない枷は十分に効果を発揮していた。  床には唾液と先走りの混合液が小さな水たまりを幾つも作っている。発情しているとこれ以上ないほど露呈しながら、苦痛と懸命に戦っている歪な笑顔、そのギャップは何よりも男達を煽っていた。 「これで充分かな。ありがとうセシル君、お疲れ様でした」  男が声を掛けると同時にセシルは崩れ落ちた。漸く悪夢のような時間が終わったのだ。スタジオに入ってたった数十分しか経っていない筈だが、全身は既に汗に塗れて怠さが抜けない。乱れた呼吸を整えることさえ困難だった。  躰に籠る熱が苦しくて堪らない。みっともないことは分かっている。しかしとにかくこの熱を発散させなくては、男達への今後の対処を考えることも出来そうになかった。 「じゃあ別室でそのまま打ち上げでーす」 「え……?」  だがカメラマンの男の言葉を皮切りに、控えていた男達はセシルの元へぞろぞろと移動してきていた。半ば呆けていたセシルの精神が冷水を浴びせられたように醒めていく。これから何をされるのか分からないほど彼は子供ではなかった。 「帰れると思った?ここからが本番だよ」 「見るだけで満足出来る訳ないさ。たっぷり可愛がってあげるからね」 「嫌ぁっ 触らないで! 離せ! ひっあ゛、ああぁっ!」  逃げ出そうにも周囲を取り囲まれた状態では何も出来なかった。腕を強く掴まれただけで絶頂しそうなほどの快感が襲う。男達はセシルを立ち上がらせると、半ば抱きかかえるようにして用意された別室へと引き摺って行った。その僅かな時間でさえ男達は膚の感触を楽しみ、肉欲から逃れることを許さない。意図せずして期待するように生理的な涙で潤んでいる瞳は男達を痛烈に煽った。 「アイドルもこうなっちゃ終いだな。お高く止まっててもちょっと盛ってやればすぐ雌の顔しやがる」 「これでまだ処女だろ? 教育のし甲斐があるってもんよ」 「まだまだこれからだからなぁ 覚悟しとけよセシルちゃ?ん」  興奮に任せて囁かれる絶望的な言葉の数々にセシルは血が滲むほど唇を噛みしめる。何の抵抗も出来ない自分が情けなくて仕方が無かった。だが男達にとってはその表情さえも興奮を高める一助にしかならない。所詮先程までの撮影など地獄の入り口に過ぎなかった。  通された部屋はこの建物の中で異質なほど豪勢だった。天井をシャンデリアが煌々と照らし、深紅の絨毯が惹かれている。壁にはあらゆる酒がずらりと並び、グラスが置かれたバーカウンターが設置されている。中央には男達の目線に合うようにステージまで用意されていた。これほど充実した設備がただの撮影スタジオに設置されているなど考えにくい。  恐らく自分のような人間を手籠めにする為に何度も使われているのだろうと推測し、セシルは嫌悪に顔を顰めた。男達は思い思いに酒を手に取り、セシルを取り囲む。 「やはりここの酒は美味いですな」 「ええ、高い金を払っただけのことはある。だが……」 「割りものがない。そうでしょう? こうすればいいんです」  そう言い放つと男は視線をセシルの陰茎へと向けた。ぴっちりと覆われた手足とは対照的に隠すことを許されない恥部は粘液で濡れぼそっているのが見える。セシルは本能的にその場から逃げ出そうとしたが、手足を四方から絡め取られ、腰を無様に揺らすしか出来なかった。未だ止まらない先走りを男はグラスで受け止めると平然と飲み干した。 「中々味わい深くて美味ですよ。やはりこういう部分もアイドルは私達と違うんでしょうねぇ」 「なるほど……! 素晴らしい趣向だ」 「ひっ…… やめてください! 気持ち悪い、頭がおかしいのではないですか」  一様に頷き拍手に包まれる男達の中で、セシルは行われたことへの異常さに冷静さを失いつつあった。  だが男達はそんなセシルの反応を過剰に気にすることは無く、さも当然のように次々とグラスを差し出していた。 「セシル君ってチンチンおっきいねぇ……。そんだけデカけりゃ女の子なんて食い放題だったでしょ」 「経験とかはどうなの? やっぱり今の僕達みたいにヒイヒイ言わせて楽しんでた?」 「…………っ」  陰茎を扱きながら問われる下賤な問いに、セシルは無言で他所を向く。その反応も想定済みだった男は肩をくすめると手を伸ばし、無防備に晒されている乳首を抓り上げた。 「はぐっ う……っ……やめ、て……」 「言いたくないなら言いたくないでもいいけどさぁ。せめて返事しなよ」  普段は何ともない箇所でも今は全く勝手が異なる。乱雑に引っ張られ伸ばされる痛みに混ざって、次第に甘い感覚が広がっていくのを嫌というほど感じていた。  だが、それを表に出さないように目をしっかりと閉じて、セシルは荒い息を吐いた。 「というか、この子シャイニング事務所だろ? 恋愛禁止なんだから童貞に決まってるじゃん。恥ずかしくて言えなかったんだよね?」 「ハッ! そりゃ傑作だな。童貞失うより先に処女喪失させるなんてごめんなぁ、セシル君」  好き勝手な男達の言い分を気に留める余裕もなかった。既に男達は全身のあらゆる箇所に手を這わせ、セシルを快楽に溺れさせようとしていた。太い指が首筋を撫ぞり、むき出しのわき腹を擽る。  堅い尻肉は揉まれる度に押し込まれた玩具が内部で擦れた。 その頃には直接吸った方が早いと陰茎を舐め回し酒を流し込む者までいた。全身のあらゆる刺激がセシルをある一点へと押し上げていく。 「そろそろ限界って顔してるよ? セシル君まだイってないもんねぇ」  喜色満面に問われてセシルは瞳に憎悪を滲ませて男達を睨んだ。顔を紅潮させているセシルは明らかに限界寸前だ。  このような男達の前で絶頂に至るのが嫌で耐えているのだろうと容易に想像できた。最早おかしくなりそうなほどの感覚が波のように襲っている筈だというのに、未だその姿を一度も晒していないのは充分驚愕に値するだろう。その高潔な決意も彼等の前では愉悦にしかならなかったが。  丁度順番だった男が目配せを送ると、セシルの全身への責めは半ば痛みを伴うほど激しいものへと移り変わった。  その痛みさえ悦びへと変換され狂おしいほどの激感が電流のように全身を駆け巡る。男はセシルの陰茎を口に含むと、溢れる先走りを潤滑油代わりに蛇のような舌で過敏な亀頭を幾度も擦り上げた。 「あっ……ま、って! んん゛っ あっあっあ゛っはあああぁああ゛ぁあ」  男の口の中に白濁液が流れる。ぐちゅぐちゅと口内を転がしながらその風味を男は存分に味わった。  そのまま飲み干される自身の精液を見るセシルの表情は快楽の余韻と恐怖で歪んでいる。 「セシル君のイキ顔初めて見たよ。ばっちり写真にも取ったから」 「すっごく可愛い反応してたよ、もっともっと鳴かせてあげるからね」 「セシル君これが初めてのフェラだよね? 記念にこれ付けてあげよう。もっと可愛くなれるから」  そう言いながら男がセシルの陰茎へゆるく結びつけたのは、可愛らしいリボンだった。ここにいるどの男よりも大きい陰茎に少女が身に付けるようなリボンが巻き付いてる姿はあまりにもギャップが大きく、嘲笑の対象に相応しい。部屋中から向けられる蔑みと欲情の視線にセシルは焦点がぶれつつある目を向けた。だがその瞳の奥にはこの理不尽な凌辱への軽蔑がはっきりと色づいていた。 「よくも……こんな……!」 「セシル君ったらまだ怖い顔して」 「いい加減諦めて楽しもうよ。さ、君も飲んで飲んで」 「むぐうぅうう゛」  男は適当な酒瓶を手に取ると、セシルの口へ無理矢理押し込んだ。そのまま酒が息を継ぐ間もなく流し込まれていく。  セシルは窒息しないように音を立てて飲み干すしか道は残されていなかった。  薬物で酩酊状態の躰に注がれたアルコールは更に視界を歪ませていく。暴れようとする力も無く、足元もおぼつかない状態でセシルは両脇から男達に抱えられて漸く立っていた。  膝を伸ばすことも出来ずヒールを震わせ、勃起した陰茎にはリボンが巻かれ、覆われて汗で蒸れている手足とは裏腹に胴体は何一つ隠せていないバニー姿。普段のセシルと見比べてあまりにも悲惨なその様も男達は容赦なく写真に収めた。 「セシル君の汗塗れの腋、とっても美味しいな。おすそ分けしてあげるね」 「いや……っ……やだっ……やめて……」  何度も交わされる口づけの間に漏れる弱々しい懇願に耳を傾ける者は誰もいない。ただでさえ神経の集中している腋の薄い皮膚を舐められるだけで、全身が歓喜しているのが嫌でも理解出来た。男達が手を離すとセシルはその場に崩れ落ち、無様に体液を垂れ流しながら座り込む。 「ほら、おじさんの人参も美味しいよ」  そんな言葉と共に眼前へ次々を差し出されるのは男達の陰茎だった。何日か洗われていないだろう其れからは魚の死骸のような腐臭が漂う。 「……嫌です。もう許してえ゛っ」  一人の男はセシルの髪を掴むと、開いていた口へ強引に自身の陰茎を押し込んだ。咥内が男根に支配され、気道を掻き分けられる悍ましい感覚さえ、性感帯を愛撫されているような痺れる快感に変わっている。その事実にセシルはただ恐怖することしか出来なかった。 「歯立てたらその場で全部へし折るからね。よ?く味わって食べてねっ」  男は生理的な涙を零しながら、柔らかな内壁で奉仕するセシルにこれ以上ないほど欲情していた。幾らセシルが抵抗を試みようと、酩酊した状態ではまともに力を入れることも出来ない。今やセシルの肉体は男達の愛玩人形と何ら変わりない状態だった。 「ところで誰がセシル君の初めて貰います?」 「出来れば私が……」 「話が違う。僕が幾ら金を出したと……」  咥内を犯されている間に聞こえた話題はあまりに醜悪だった。このような卑怯な集団に、幾重にも抵抗を戒められている現状を抜け出すことを考えることさえ覚束ない。  既に男達の手は再び全身を這い回り、意識さえしたことの無かった初めてさえ奪われようとしている。  そんな時だからこそ、セシルは男達を意図せずとも震えてしまう瞳で見つめていた。だが、心身ともにこの男達に屈してしまえば、二度と一人では立ち上がれないような嫌な予感が付き纏っていた。  男達の話し合いが終わったらしい。一人の男が進み出ると、中央のステージにセシルを横たわらせた。それなりの高さのあるステージはベッド代わりとなり、容赦なくセシルの肢体を男達へと捧げる。眼前の男は身に付けているものこそ高級だが、内心の醜悪さは微塵も隠せていない好色な姿をしていた。目の前の獲物に荒くなる息が至近距離に迫り、セシルの全身は総毛立った。 「嬉しいねぇ。娘が君のファンでさ、まさか憧れのアイドルの処女をパパが貰ったなんて夢にも思ってないだろうな」 「そんなっ……人とし、て……恥ずかし……く、ないのですか?」 「じゃあ君はオナホで性欲処理する時に恥ずかしさを感じるかい?」 「うわああぁあ゛あぁあっ」  男は平然と言い放つと挿入されていたアナルビーズを引き抜いた。殆ど拡張のされていない後孔への衝撃は苦痛でしかない。だが男はそんなセシルの反応には気を留めない。  脚を閉じられないように腿の間に躰を滑り込ませ、開かれた孔に自身の長大な陰茎を押し込んだ。 「ひっ……ぎ、ぃ……!」  玩具とは太さも長さも明らかに違う其れが入り込むだけで、苦し気な呻き声が漏れた。胃まで押し潰されそうな圧迫感、明確に男から性を穢されている不快感にセシルは耐えることが精一杯だった。だが今のセシルを最も打ちのめしているのは其れに伴う痺れるような快感だった。  無理矢理肉を引き裂かれる激痛を狂わされた感覚は今まで感じたことのない快楽として受け取り、強制的にセシルを被虐的な悦びへと叩き落していた。 「抜けっ……抜い、い゛……!」 「はいはい。抜いてあげるね」  セシルの頭を宥めるように撫でながら、男は陰茎をゆっくりと引き抜いていく。それだけで肉が伸び、意図しない声が部屋に響いた。未知の快楽に躰は逃れる方法さえ分からず、その感覚を刻み込んでいく。 「はぁ……あっあぁあ……! まって……嫌、だ」  男の妙な素直さにセシルが疑問を抱いた時は既に遅かった。  抜けるギリギリまで引き抜いた後、男は間髪入れずにもう一度陰茎を押し込んだ。とぷりと音を立てて溢れ出した先走りが腹に零れる。 「うわああぁああ゛ああぁあ!」 「っ……可愛いね、セシル君。初めてなのに一杯感じてくれて嬉しいよ」  セシルの意識が白み、快楽に身を任せる度に括約筋が締まり、男に極上の快楽をもたらす。勢いづいた男は躊躇わなかった。セシルの細腰を決して逃れられないように両手で掴む。そのまま幾度も陰茎を抜き挿しした。凶悪な肉棒が奥を暴く度に絶叫と嬌声が入り混じった悲鳴が響く。 「いやああああぁあ゛ああぁあ゛! ああ゛っ うがっ、は……ぁ……ひっぐ、う゛! ぎぇっ、あ、あああぁあ゛あぁあ!」 「何が〝嫌〟だ。今までここまで乱れた子なんて殆どいなかったよ」  腹に飛び散るセシルの精液を、男は満足げに指で広げた。気が狂いそうなほどの衝撃が駆け抜け、思考が途切れる。  盛られた薬は既に全身に巡り、かつてセシルが経験したことのないほどの連続での絶頂をもたらしていた。そんな未知の感覚に放り出され、まともに意識を保つことなど出来る筈も無い。セシルはただ、男の腕の中で無様に悶えるだけだった。 「セシル君の子宮に出すぞ! 見てろよ、一発でぶち当ててやる。俺がアグナパレス次期国王になってやるからな!」 「はっ………ぁ…………あ……」  最も汚らしい音が内部で響き渡る。直腸だけでなく、内臓、肺、脳天にまで広がるような汚濁。男が陰茎を引き抜くと、腿を伝って白濁が床へ垂れた。セシルの瞳は光彩を失い、視線は虚空を彷徨う。だがそのような余韻にいつまでも浸っていられる訳もなかった。 「うわあ゛っ な、ぜっ……もう……」  明確に恐怖の色を浮かべるセシルとは異なり、次に陰茎を挿入した男は当然のように平静だった。 「ばーか、これから全員で回すんだ。この状況で孕んでも誰が父親かなんて分からんさ」 「なに、それなら全員で王族入りすりゃいいんだよ」 「そりゃあいい」 「俺達も大出世だ。田舎の母ちゃんが喜ぶな」  部屋中にたむろする男達の笑い声が煩い程に鳴り響く。  それを皮切りに周りの男達も次々に凌辱へ加わった。力無く開かれた口に咥えさせ、力無く萎えていた陰茎を擦り、空いた両手に自身を握らせる。今更暴れ出そうにも多くの男の力に、弱り切ったセシルがまともな抵抗など行えなかった。布で覆われた手足にも、むき出しの膚にも多量の粘液が降り注ぐ。褐色の膚は白濁の軌跡を容赦なく明らかにしていく。灯りに反射して艶めかしく照るその姿は誰がどう見ても淫らだった。 「忘れられない初体験になったんじゃない? 僕的にはもう最高。ずっと前から狙いを付けてただけあったよ」 「ねぇセシルく~ん、今何本のちんこの相手してるか分かる?」 「おい、お前らやり過ぎだろ。見ろよ。もう意識飛びそうになってやがる。後がつかえてるんだぞ」  一人の男が軽く頬を叩くと、横たわる肢体から微かな呻き声が漏れる。男達は頷き合うと、過剰とも言える苛烈さで再びセシルの全身を責め始めた。 「ひぎっ…… あ、あっああ゛ぁあああ゛ぁああああぁあああ!」 「おっ起きた起きた」 「こうやってぼんやりしてるガキを分からせている時が私は一番好きですね」  意識が朦朧とし無防備に晒されている中で、男達に快楽で叩き起こされる。普段は性感帯として意識したことも無い背中も、膚の薄い腋も、かつてないほど腫れあがっている乳頭も、壊れた蛇口のように白濁と先走りを垂れ流す陰茎も、何もかも今のセシルにとって絶頂へ叩き上げていく凶器だった。  最早耐えることも出来ず悲鳴を上げて乱れていても、男達は次々と立ち位置を変えきつく締まるセシルの内部を味わい尽くす。強引な拡張に伴う圧迫感、激痛は薬が誤魔化し、ある一点を突かれるだけで何も分からなくなりそうな衝撃が全身を駆け巡る。  男達が一巡し終わった時にはセシルの全身は汗と自他の体液に塗れ、大きく胸を上下させて荒い息を吐きながら倒れ伏す悲惨な有様を呈していた。 「愛島君、愛島君。寝てる場合じゃないよ」 「こういう所が馴れてない奴は駄目だな。男の子だろ、処女喪失したくらいでへばるんじゃない」 「ダメですよ、手なんかあげたら。処女喪失してるんですからこれからは女の子として扱ってあげなきゃ」  何人かの男がセシルを抱き起すと、グラスの酒を顔へかける。微かな呻き声と共にセシルはゆっくりと目を開いた。  その表情には静かな反発が確かに宿る。ここまで貶められながら、彼の精神はまだ生きていた。男達はその様に驚嘆していた。コイツは当たりだ、と部屋の随所で囁かれるのを聞きながらセシルは顔を顰めた。  この男達の前で自分を保ち続けるほどに責めは苛烈さを増すことなど理解している。だが、男達の望むままに全てを投げ捨て、快楽に身を任せることは彼の誇りが許さなかった。 「ではそろそろ休憩に入りましょうか」 「それは良い。我々も年ですからね」  一人の男の声を皮切りにセシルから距離を取り、男達は次々と舞台から降りていく。これまでの一切手を緩めなかった凌辱との対比に、セシルは訝し気な視線を男達へと向けた。  薄汚れた自分達を射抜く玉虫色の瞳に男達は興奮を隠さなかった。この玩具が多少無理をしても壊れないのならば、もっと深く彼の誇りを傷つけ、穢そうと彼等は目論む。 「じゃあ、さっきやったから分かるよね。僕達またカクテルを頂きたいんだ」 「今度はミルク割りなんてどうですかな」 「それは傑作だ。セシル君は確かミルクが好きなんだよね? 味にも期待が持てるなぁ」  ステージに一人取り残されたセシルへと好奇の眼差しが注がれる。促すような視線を辿ると、ステージの中央に凶悪な大きさのディルドが設置されていた。床に固定されている其れを使って自慰をしろ、とセシルは暗に求められていた。  押し付けられる侮辱にセシルの血の気が自然と引いていく。  撮影の時と同じように、自分からこの男達の見世物に堕ちろと言われたも同然だった。逃げ出したくとも男達は既にぐるりと周囲を取り囲んでいる。先ほどまでのように力で無理矢理強制されるよりも余程精神的な拘束を感じていた。悔しい、嫌だ、やりたくない、そんな思いが次々と飛来し、セシルは指一本動かせなかった。 「おいどうした、興が醒めるだろうが」 「玩具風情が調子に乗るなよ」 「それとも何か? セシルちゃんは純情過ぎて使い方も分かんねえのかぁ?」  嘲笑が広がる中で、一人の男がセシルの頬を張った。その場で倒れ伏すセシルは呻き声こそ上げたものの、男を見る瞳には軽蔑が強く滲む。それでも彼には最早堕ちていくしか道は残されていない。周囲の男達の濁った眼を見ながら、セシルは変貌した躰の無力さに歯を食いしばることしか出来なかった。ディルドは床に固定され、これを使うならば上に跨って腰を上下させるしかない。セシルはよろめきながら立ち上がり、おずおずとディルドへと腰を落とした。 「ふっ……っ!? ぐう゛ううぅうう!」  セシルは目を見開き、喉を晒して快楽に悶える。出来る限り快楽を感じないようにゆっくりと挿入したのが仇となり、肉が引き裂かれる感覚が鮮明になる。狭い箇所を押し広げる物は実際の何倍も太いように感じられた。巨大な杭で全身を貫かれているような錯覚まで抱くほどの圧迫感に、セシルは過呼吸寸前で浅い呼吸を繰り返す。  半ば意地で挿入こそしたものの、そこから腰を持ち上げて絶頂まで自身を導くのは弱った躰には重労働だった。セシルは少しでも躰の負担が軽くなるように内部の性感帯を避けながら、それでも生まれる快楽を少しずつ溶かすように動く。頬を羞恥と快楽に紅潮させ、僅かに腰を上下させていくその姿は充分惨めなものだったが、男達はその程度で満足しなかった。 「おい。コイツ手ぇ抜いてるだろ」 「そんなんじゃいつまでも終わらないよ。……そうだ」  一人の男は手を打つと、カウンターから硝子のマドラーを持ってきた。そのままセシルに近づくと、男は事も無げにセシルの陰茎へとそれを近づけていく。セシルは咄嗟に男を突き飛ばそうとしたが、背後から近付いていた別の男が両手を容易に抑え込んだ。躰は玩具で串刺しにされその場から動くことも出来ず、セシルには男のすることを受け入れる以外の選択肢は無い。 「……何を 何故 やめて! ワタシはちゃんとやっています! そんなの入らなっあ゛あぁあ゛ああ゛っ!」  男はセシルの尿道にそのマドラーを深々と突き刺した。先走りと精液で濡れていたとはいえ、そんなものを無理矢理突き込まれれば生じる苦痛は並大抵のものではない。本来なら泣き喚きのたうち回るほどの激痛は快楽と入り混じりセシルの精神を押し潰した。 「暴れたら中で割れてシャレにならないことになるぜ」 「でも良かったじゃないか。見た限りじゃあの子イきたくなくてダラダラ動いてたんだろう? これで思いっきり動けるな」  男達は暗にもっと激しく、自分達を楽しませるように動けとセシルに告げていた。セシルは生理的な涙を湛えながら男達を睨む。そのまま動かない訳にもいかず、セシルは前にも後ろにも衝撃が向かないよう再び腰を上下させた。 「ひっ……ぐ……ぅ……あ゛っ、あ、あ………あ……!」  しかしそれは自分で自分の首を絞める行為同然のことだった。既に彼の躰は熱に囚われている。その一方でセシルは男達の前で絶頂に至ることを拒んでいた。絶頂に至るには決して足りないやり方で自身の躰を責めるならば、肉欲は決して発散されることなく彼の躰に溜まるしかない。強制的に何度も絶頂の味を教え込まれた状態で、急にそれを取り上げられれば苦しいのは当然のことだった。 「……もう……分かりまし、た……分かりましたから………離っし、て……」 「僕達は休憩中なんだってば。早く終わらせたいならセシル君が頑張るしかないんだよ」  男達は決してセシルに触れようとせず、熱に焼かれて悶え苦しむ様を存分に視姦していた。深々と突き刺さる杭が内部の粘膜を引掻く度に、抑えきれない声が漏れる。視界が歪み、心音が煩いほどに鳴り響く。煮えた血液が薬効を脳にまで届かせ、神経が揺さぶられる。このままでは気が狂うという絶望に似た確信があった。 「ふっ……ぎ、ぃい゛いっ……誰かっ……だれか………」 「まだ耐えられるかぁ。酒と薬どちらか足すか?」 「いいね。セシル君があと十秒で一回思いっきり出し挿れ出来なかったら両方足そう」 「どっちかじゃねえのかよ」  男達の提案は嫌でもセシルの耳に入る。ただでさえ発狂しそうなほどに感度が暴走している所に、その原因を継ぎ足されれば確実にセシルはその精神ごと壊されるだろう。残された選択肢は一つだった。冷汗が流れる感覚だけでも声を漏らしながら、セシルは必死に腰を持ち上げた。 「う゛わぁあぁあああ゛ああぁあ!」 「おっ、頑張ってる。えらいえらい」 「ぎゃああ゛ああぁああ゛ああぁ! ……あ゛っ」  抜ける寸前までディルドを引き抜き、深く腰を落として突き入れる。その動きだけで視界が白むほどの快楽がセシルを直撃した。自分で留めていた熱が一気に弾ける。躰を弓なりに反らせてセシルは何も考えられず絶叫した。だがそれに伴う筈の絶頂は彼に訪れなかった。代わりにやってきたのはせり上がってくる感覚が塞き止められる激痛。尿道から僅かに先走りだけが噴き出した。無防備に開かれた精神に苦痛が直撃する。  男達の狙い通りどれほど動こうと、許可されるまでセシルは存分に快楽に浸ることは決して出来ない。しかしセシルに出来ることは唯一つだ。再び腰を持ち上げるだけでカリ首が熟れた肉を擦る。生まれる快楽は容赦なくセシルの全身を駆け巡った。どうしようもなく甘美なその感覚の直後、鈍器で殴られるような激痛が再び襲い来る。正反対の感覚が入り混じり、セシルはそれに屈服させられた。 「やめでっ! いぎゃあああ゛あぁあ゛ああ 痛あ゛っ、ひっ、んんっ あ゛ああぁあ!」  散々絶頂を味合された後に付けられた枷は地獄そのものだ。だが、気づいた時には全て遅かった。当然来る筈の解放は訪れることなく、悲鳴だけが周囲に響く。鼓動の音が煩いほどに鳴り響き、熱が促すままに自然と腰は早く動いていく。僅かに残った理性はそれを自覚し、必死に躰を止めようとした。 「なーに止めようとしてんだっ!」 「うぎゃっ、あ゛、ああ゛あ゛ああぁあああぁああっ」  空気が鳴り、背中の肉に乗馬鞭が振り下ろされる。上がった悲鳴に鞭を握った男は満足げに口笛を吹いた。だがセシルにとって恐ろしかったのは、その痛みさえ自身を苛む熱を高めている事実だった。僅かでも動きを緩めれば鞭が次々に振り下ろされ、汗と血が混ざった体液が飛び散る。  その間でも絶頂に至ることは決して出来ず、だからこそより快楽を集めるように狂った感度は更に異常性を増していく。暴れるように腰が動き、狂気が滲んだ絶叫が響き渡る。その中で、リボンで装飾された男としての象徴は無様に揺れていた。本来の使い道を全て塞がれた其れは、鑑賞していた男達の目を存分に楽しませていた。 「そろそろいいんじゃないか?」 「確かにそうですね。それではどうぞ」 「いや゛ぁッ! やめてっやめええぇええ゛っ あ……あ゛ああぁあ゛あ゛ああ!」  一人の男がマドラーを引き抜くと、セシルはその感触で限界まで背を反らせて絶頂へ登り詰めた。尿道の前に構えられていたグラスが噴き出した精液を受け止める。耐え続けていた分だけ唐突に迎えた解放に抗うことさえ出来なかった。頭の片隅まで痺れるような快感が全身を打ちのめす。 「は……ぁ…………ぐ……っ……」 「なるほど。やはり若いアイドルですと味が違いますな」  抜かれたマドラーは先走りと白濁が纏わりついていたが、男は当然のようにそれを使ってグラスの精液と酒を混ぜ合わせた。音を立てて飲み干され、味を評される行為の悍ましさにセシルは込み上げる吐き気を堪えるので精一杯だった。 「羨ましいことで。私達も早く頂きたいものです」 「きっと上等なんでしょうなぁ、王族の遺伝子というのは」 「へっ……ぁ……何故?」  次々とグラスを構える眼前の男達を見て、セシルの目が驚きで見開かれていく。 「何驚いてんだ。まだ一人しか飲んでないだろうが」 「全員分やってもらうに決まっているだろう? 皆それを楽しみに此処に来ているんだからね」 「酒をサーブするのはバニーちゃんの仕事だからな。精々頑張れやッ!」 「やだっ、やめてっやめて、くださっ、あ゛っ い゛ぎゃあああぁああ゛あああぁあ゛あああ゛!」  拒否の言葉など誰の耳にも入らなかった。逃げ出そうとした躰へ容赦なく鞭が振り下ろされ、褐色の膚に紅い痕を刻み込んでいく。それから躰を持ち上げる太腿が幾ら痛もうが、快楽と苦痛を悲鳴で表そうが、男達の暴行が止むことは無かった。寧ろセシルが苦痛と快感に追い詰められるだけ、男達はその様を嘲笑った。  再び尿道に異物を挿入されて、腫れあがった陰嚢を撫でまわされる。鳴き喚き、気が狂う寸前まで射精欲に苛まれて漸く絶頂が許可される。その度に男達は一人、また一人と喜々として?カクテル?を作り上げた。何度も意識が遠のき、男達はそれに合わせて平然と薬をセシルに注入していく。躰も精神もめちゃくちゃにされて、ただ終わってほしいとだけ祈り、そのぼんやりとした意識さえ苦痛と快楽の海に沈められていった。 「……が……ぁ…っ……あ……」 「あれ、もうだめだ。何も出ねえ」  粘液に塗れ、真っ赤に腫れあがっている陰茎は溜め込んだ精液を吐き出し尽くしていた。尿道は大きく開かれ精液の残滓を垂れ流している。セシルの喉は嗄れ、疲れ切った躰は浅い呼吸を繰り返した。男達から強制され続けた行為は彼にとってあまりにも残酷過ぎた。 「けっ、イキまくりやがってこの淫乱野郎。使えねえな」 「まあまあ、これでも全員一杯は飲めたんだからいいじゃないか」 「そうだな。休憩中の余興としては充分だ」  男達は頷き合うと再びセシルに近づいていく。セシルの瞳に恐怖が現れた。体力の回復した男達とは対照的にセシルは消耗しきり、男達の為すがままだった。両脇を抱えられディルドが引き抜かれるだけで媚びるような嬌声が漏れる。 「お願い、します……もうやめて……いや、嫌ですっ! 触らないで! 何もしないで!」 「今更ビビってんじゃねえよ。またおじさん達皆で回してやるから覚悟しとけよ」  手足を押さえ込まれ、セシルはステージから引きずり降ろされる。見世物から性玩具に立場は変わった。躰を男の手が這い回り、強引に脚が開かされていく。最初の男が陰茎を押し込んだ瞬間、慣らされた躰は容赦なく快楽を拾い上げ、セシルは喉を震わせて絶叫した。  彼の意識が残っていたのはそこまでだった。過敏な粘膜に煙草を押し付けられて泣き喚く様子を嘲笑われ、前立腺を何度も肉棒で殴られて嬌声を垂れ流した。最早自身が快楽で鳴いているのか痛みで泣いているのか、それさえもセシルは分からなかった。尿道にも再び異物が挿入され、解放されるまで何度も許しを請わされた。既に精液の尽き果てた躰は先走りと尿を代わりとばかりに垂れ流し、過ぎた快楽が如何に苦痛を伴うかをセシルに教え込んでいた。  彼の躰も尊厳も全て男達は思うままに穢していった。今までセシルを支えていた信念も、誇りも、想い出も、何の意味も為さなかった。  気が付いた時、セシルの周囲には誰もいなかった。照明が落とされた暗い部屋には精液のすえた臭いだけが漂う。  セシルは起き上がる気力も無く、そのまま床に倒れ伏していた。周囲もセシル自身も酷い有様だった。全身が精液に濡れ、膚には鞭と煙草の痕が無数に刻まれている。服を着れば見えない背中や内腿には特に深い傷が大量に残っていた。ニーハイソックスはずり落ち、付けられたカチューシャもずれている。無理に拡張された後孔と尿道からは自分と他人の精液が垂れ流されている。  目を凝らせば体液で出来た水溜りがあちこちの床に出来上がっているのが見えた。それを避けるようにして一対の革靴がセシルへと近づいてきた。また犯されるのか、と投げやりな思いがセシルの脳裏を過る。 「仕事終わったみたいですね。はいこれ、ロッカーの鍵です」  やって来たのは最初にセシルと出会った男だった。汚物を見るような目でセシルを眺めると、その男はセシルの眼前に鍵を落とした。べちゃ、と音がして精液が鍵に纏わりつく。そのまま男は踵を返し、一切振り返ることはなかった。音を立てて扉は閉ざされ、後には壊れた玩具が一つ、残されているだけだった。

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