Sleeping Beauties

 セシルさんの低い声がわたしの名前を呼ぶ。仕事から帰ってきたんだなとわたしは眠い目を擦った。それでもベッドから起き上がれるほど目は覚めなくて、そのまま夢うつつになっていた。シャワーを浴びる音や、布の擦れる音が今にも子守歌になってしまいそうで、何とか意識を繋いでいると掛け布団が捲られる感触があった。何年経っても子供のように高い体温が隣に潜り込んでくる。 「セシルさん……」 「My princess.ただいま帰りました」  薄目を開けると、わたしと同じくらい眠たげな顔が目の前にあって、少し笑ってしまった。 「おかえりなさい。お仕事お疲れ様でした」 「ありがとうございます。起こしてしまってごめんなさい」 「いいんです。おかげでセシルさんにおかえりなさいが言えました」  我ながら如何にもむにゃむにゃと話してしまったからか、セシルさんはわたしのお腹を布団の上から優しく叩いた。それは子供の時にお母さんから寝かしつけてもらった時そのままで、セシルさんもそんなことをしてもらったことがあるのかとぼんやりと考えていた。お腹で感じる一定のリズムが泣きたくなるほど優しくて、今にも意識が途切れてしまいそうなのだけれど、目の前の時間をもう少し味わっていたい。その一心でわたしはセシルさんの頭をそっと撫でた。わたしはセシルさんの細くて綺麗な髪の感触が大好きだったし、彼の頭を膝に乗せている時に、頭を撫でるといつも目を細めてくれる。  やっぱりセシルさんもだんだん瞼が下がってきて、わたし達はとろとろとした目線で見つめ合った。わたしの体で感じているリズムがゆっくりになって、セシルさんの髪の感触を何度も確かめて。もう殆ど目を閉じているセシルさんは、小さな声でおやすみなさいと呟いた。おやすみなさい、と返したわたしの声も今にも消え入りそうで、わたし達は朝までの暫しの別れを惜しみ続けた。

短いですがお気に入りの話。

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