一掃

 暗く閉ざされた空間が白く輝く。掃除屋達が武器を振るう度に辺りを戒めている魔術は次々に浄化されていった。その合間を縫うように、男が走り抜ける。思いつく限りの罵詈雑言を投げかけながら、追い詰められた魔術師の男は逃げ続けていた。  街一つを支配下に置こうとする男の計画は、二人の掃除屋の手によって一夜にして崩れようとしている。助手と呼ばれている夕日のような髪をしている掃除屋は遠方から狙いすましたように男の魔術を撃ち抜き、リーダーと呼ばれている褐色膚の掃除屋はガスマスクで顔を覆い隠し、近距離戦を仕掛けてきた。男はそれを避けて逃げ出すので精一杯だ。既に街の人々の心をほぼ浄化していた。 「畜生、畜生……! お前達さえいなければ……っ!」  「これ以上罪を重ねない方がいい。足掻いてもアナタの為にならない」 「煩い!」  男が放った攻撃魔術を、掃除屋は苦も無く弾き飛ばした。涼しい顔をしているその姿が男をより苛つかせる。 「お前も所詮は雇われの身だろ? 俺と組まないか? あんな古道具屋の女なんかよりずっといい報酬をお前にやるよ」 「申し訳ないですが、ボクはアナタにそれ以上口を開いてほしくない」  掃除屋は男へ冷ややかな視線を向ける。そのまま掃除屋は一気に距離を詰め、男へ武器を振り下ろした。 「そんな怖い顔すんなよ。あの女に惚れてるのか? じゃあ俺が惚れ薬でも作ってやるよ。なあ!」  男の声を打ち消すように、掃除屋の武器が地面へとめり込んだ。至近距離で漸く避けた一撃の威力に男は心から恐怖する。その瞬間にも燃えるような翡翠色の瞳が男を見据えていた。  更なる追撃に動こうとしたその一瞬に、男は全力で爆発魔法を掃除屋へと放った。咄嗟に掃除屋は背後へと飛び退いたが間に合わなかった。  命こそ奪われることはなかったが、その衝撃を完全に逃すことは出来ず、掃除屋は地面へと倒れ伏す。  男は怖々と様子を覗っていたが、掃除屋が完全に意識を失っていることに気づくと、意気揚々と近づいた。 「やった……よな……。ケッ、散々手こずらせやがって。口ほどにもねえ」  追い詰められた怒りに任せ、男は掃除屋の脇腹を蹴る。掃除屋は小さく呻いたが、まだ目覚める気配は無かった。とどめを刺そうと男が再び魔力を込め始めた瞬間、遠くで何かが崩れる音がした。  辺りの風景が歪み、男が掛けた魔術が次々に浄化されている。今はまだ遠い位置にいるが、間違いなく掃除屋の仲間だろう。男を探している気配がある。先程の爆発で戦闘場所には気づいているらしかった。  苦々しく舌打ちをした瞬間、男はあることを思いついた。  ここまで自分をコケにした彼等をただ殺してしまうのは面白くない。男は掃除屋の腕を掴むと、共に別の心へと転移した。  次に移動した心は特に厳重な魔術を掛けている場所で、男が本拠地の一つとして使っていた。元々の美しい心象風景は既に消えかけており、モノクロームの殺風景な空間だけが広がっている。この場所を掃除屋の仲間が見つけるまでには時間がかかる筈だった。  男は冷たい床へと掃除屋を横たわらせると、深く息を吐く。 「心を支配するのが駄目なら、躰から支配するのはどうだ?」 「…………」  答えられる筈もない問いを投げかけ、男は鼻で笑う。そのまま舐めるように掃除屋の肢体を眺めた。  男にはこうした〝遊び〟を時折楽しむ悪癖があった。大抵その対象になるのは魔術で支配した若い女性達だったが、掃除屋に対してはある種の侮辱として男は遊びを行おうとしていた。  激しい戦闘のせいで汗と土埃に塗れているが、掃除屋の外見は悪くない。しなやかな筋肉のついた長い手足は、触れると若さに溢れた弾力で指を押し返す。体躯に密着したスーツがより淫靡を男にもたらした。だがそれでも所詮は男性の躰だ。 「さぁて、どんな面で俺にご高説垂れてたのかな」  ガスマスクを男がゆっくりと指で引くと、覆い隠されていた掃除屋の素顔が露わになる。滑らかな線を描く卵形の輪郭、高い鼻、僅かに開いている薄い唇、少年の面影を残す頬には長い睫が陰を落としている。どこを見ても思わず感嘆するほど美しいものだった。覆い隠されたものを白日に晒した背徳感が興奮をより強く掻き立てる。 「……くだらねえ。こんなガキ一人にしてやられてたなんてよ」  言葉とは裏腹に、男は満足げに息を吐く。戦闘の中で自身を睨んでいた姿と、無防備に横たわる今の姿が重なり、征服欲が満たされ、より強く煽られる。  男が最も心惹かれた、燃える翡翠のような瞳は瞼に覆い隠されたままだった。 「おい……、お前。依頼されたら何でも掃除するって街で触れ回ってたよな」  無骨な腕が肩の優美な線を掴む。無理矢理身を起こされても、掃除屋の意識は未だに深く沈んだままだった。 「俺も〝依頼〟させてくれよ。お前に綺麗にしてもらいたいモノがあるんだ」 「…………」  意志のない頭を男は両手で掴むと、まるで言葉に反応したように頷かせる。その様子がまるで掃除屋の意志まで手に入れたかのように思えたのか、男は下品な笑い声を響かせた。  男は片手で掃除屋の頭を支えたまま、空いた片手で服を緩めて下半身を露出させる。既に兆していた長大な陰茎が悪臭を垂れ流した。黄茶けた滓がびっしりとこびりついた亀頭を、掃除屋の整った顔に擦り付ける。瑞々しい膚の感触は清廉そのもので、自らの穢れを押しつける背徳感を増長させた。  頬を伝い、柔らかな唇に辿り着くと微かな吐息が感じられた。男は堪らず手で掃除屋の口をこじ開けると、自らの陰茎を奥へと押し込んだ。温かな肉の感触が男をまるで抱き締めるように包み込む。腰を動かす度にぐちゃりと水音が響き、滓が入り交じった唾液が掃除屋の服へと垂れた。背徳と、優越と、圧倒的な支配欲が全て満たされる。この美しい存在を穢し、征服しているのは自分なのだ。そう自覚する度に、男は街一つを手中に収めた時と同様の興奮を得た。まさに極上の快楽だった。 「たまんねぇ……。口だけなら男だろうが女だろうが変わりゃしねえな」  そのまま男は欲望に任せて、腰を激しく動かし、喉の最奥まで自身の存在を擦り付けた。呼吸が制限されて苦しいのか、掃除屋の躰は本能的に男の陰茎を強く締め付ける。酸欠からか頬は赤く染まり、まるで行為に興奮しているかのように淫靡に見えた。 「これはっ……予想以上だな。こっちの掃除も普段からやってんのか? おい! そろそろ出すぞ最後までしっかりやりきれよ……っ!」  男は掃除屋の頭を両手で掴むと、喉に向けて精液を吐き出した。大量の汚液は口内から溢れ、褐色の膚を彩りながら伝い落ちる。 「ゲエッ……! ゲホッ、ゴホッ……」 「流石にもう起きるか」  掃除屋は身を丸めながら苦しげに咳き込み始めていた。男はその様を鼻で笑うと、魔力を両腕に込める。数秒もすれば目の前の掃除屋も魔術で粉々に消え失せる。追ってくる掃除屋の仲間にも遊びの痕跡を見せつけて狼狽を誘えば、倒すのはそう難しい話ではないだろう。 「こいつら倒したら、あとはあの古道具屋の女だけか。チッ、手こずらせやがって忌々しい。あの女にも楽しませてもらわにゃ割に合わね……」  その時、男は強く腕を捕まれた。発動しかけていた攻撃魔術が消え失せ、代わりに激痛が走る。咄嗟に男が身を捩ると同時に、頭部へと武器が振り下ろされた。 「ギャァ!」  情けない悲鳴と同時に男は後方へと走る。その姿を燃えるような翡翠色の瞳が睨んだ。 「随分と楽しそうだけど、その計画は実現しないよ。ボクは倒されたつもりはありません」  掃除屋は口内に残っていた白濁を吐き捨てると、即座に男へ武器を振り下ろして追撃した。男は辛くも身を避けながら強引に衣服を整え、次々と爆発魔術を放つ。掃除屋はそれらを全て弾くと、不快そうに眉を寄せた。 「もう同じ手は受けません。だけど、うえぇ……フカクを取っちゃったな」  穏やかな口調に反して、彼の目は全く笑っていなかった。暗い魔術に覆われた空間は瞬時に浄化されていく。それと同時に空間に裂け目が開き、掃除屋の助手も飛び込んできた。 「リーダー、遅れてしまってすみません! 大丈夫でしたか」 「うん、大丈夫。……もうボクは負けたくないなって思っているんだ。手伝ってくれるね」 「勿論です!」  掃除屋二人の目が男を冷たく見据える。舌打ちの音を残して、男は再び逃げるしか無くなった。だが、掃除屋の逆鱗に触れてしまった男が捕らえられるまで、そう時間が掛かるはずもないのだった。

シャニライ掃除屋さんイベントより妄想。初めて愛島君がモブに勝ちました。

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