長雨の中で

「あー……」 「予報では晴れだったそうですが……」  わたし達は窓から空を見上げて小さく溜息を吐いた。窓を叩く水滴の勢いが強くなった気がした。今日は久しぶりの二人でのオフだったから、外で色々としたいこともあったけれどこの天気では仕方がない。わたし達は予定を全部取りやめることになってしまった。  いつまでも落ち込んでいても仕方がないから、持っている映画でも見ようということになった。外に二人で出かける機会が多くないから、映画はわたし達の定番の過ごし方になりつつあった。仕事柄貰うものや資料として買ったものも合わせると結構な本数が棚にしまわれている。大体見てしまった中から色々と取りだしていたけど、選ぶ映画は大体決まっていた。 「これなんてどうですか?」 「いいですよ。アナタはその映画が好きですね」 「はい。ストーリーも音楽も素敵ですし、セシルさんが出演されているので……」  言いながら今更恥ずかしくなってしまって、わたしが思わず語尾を濁すと、セシルさんは少し笑った。  二人で映画を見ている時、セシルさんが画面を見ている時間はそれほど多くない。こうやって何度も見ている映画の時は特にそう。彼の方に視線を向けて確かめたりはしないけれど、時折わたしの方をじっと見つめているのを感じる。そんなに変な顔をして映画を見ているのかなって思っていたけれど、多分映画の内容よりわたしがどう感じているのかという方が気になってしまっている……のだと思う。映画はもう終盤に差し掛かっていて、思わず目を潤ませているわたしの手を、セシルさんは励ますようにそっと握ってくれた。わたしもゆっくりと握り返すとセシルさんは少しだけ画面に視線を戻していた。  エンドロールを聴きながら映画の感想を言い合って、作り置いていた料理で簡単な昼食を済ませた。そうすると空いてしまった時間がやってくる。 「ふぁ……すみません」 「外が暗いからでしょうね。ワタシも少し眠い……」  セシルさんも口を手で覆って欠伸をすると、わたしの手を引いて寝室まで導いてくれた。そのままベッドに二人で座っていた。必要のない灯りは消してしまって、手を繋いでいると世界で二人きりになったみたいで。こんな雨でも雲の隙間から少しだけ光が入って、白い壁を照らしていた。  わたしもセシルさんも何か特別話す気にもなれなくて、雨音だけを聴いていた。窓を叩く音はますます強くなって、少し風も出てきたみたいだった。どちらからともなく二人で布団に潜り込んで、手の中の温かさだけを確かめる。この温もりだけでわたしは何も怖くなかった。  ぎゅっと手を握っては緩めてと繰り返しているうちに、セシルさんのしなやかな腕がわたしの腰に回る。花のような彼の香りに包まれながらわたしはその胸元に頬を寄せた。こうしていると、まるでわたし達は一つの存在になったみたいに思えてしまう。止まない雨音に混ざる鼓動を聴きながらわたしは静かに目を閉じた。

雨の日の昼寝が好き。

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