サウナ通いは検討中

「うう……」  連日降り注ぐ日差しの中で、わたしはやっと空を見上げた。キャンバスに直接塗りたくったような青へと、天まで届きそうな入道雲が昇っている。いつのまにか夏は、わたしの傍らにいる。  乾ききって触れるだけで熱い空気を躰で押し退けながら、わたしは家へと必死に足を進めていた。夏は嫌いではないけれど、こんなに暑かったら死んでしまう。自然の脅威にあっさり敗北したわたしが望むのは適切な気温、冷やした麦茶、蕩けるようなアイスクリームだった。  鞄の中から熱された鍵を取り出して扉を開ければ、ひんやりとした空気が……感じられる筈だった。 「おかえりなさい。ハルカ!」 「セシルさん……? あっ、ただいま帰りました!」  先に帰っていると連絡をくれていたセシルさんがわたしを抱き締めてくれる。外でかなり汗をかいたから彼が変な臭いを感じなければ良いのだけれど、と思ってしまった。  というのも、部屋が外の気温と何ら変わらないので、汗は引くどころか未だに流れ続けている。慌てて汗を拭いていると、エアコンのスイッチが入る音がした。 「ごめんなさい。日本では今日真夏日でしたね」  麦茶をコップに注ぎながらセシルさんが呟いているのが聞こえてきた。 「わたしこそごめんなさい。気を遣わせてしまって……」  セシルさんが差し出す麦茶をわたしは喉を鳴らして飲み干した。火照った躰が落ち着いてきて、わたしは軽く息を吐いた。向かいの椅子にセシルさんが腰掛けて心配そうに見つめてくるので、少し申し訳なくなってしまった。セシルさんはこの暑さの中でもなんてこと無い顔をしていた。 「アグナパレスはもっと暑いんでしょうね……」 「確かに。今日は少し涼しい方の気温ではありましたが……」  どうしよう。明日からもう少し暑さに慣れるトレーニングをした方が将来に良いかもしれない、そんなことを咄嗟に考えてしまって。わたしが目に見えて動揺してしまったからか、セシルさんまで少し視線を泳がせていた。 「でも、ワタシは将来の妃を暑さで苦しめるつもりはありません。魔法でも文明のリキでも何でも使ってアナタを守りますから。だから安心して下さい」  それに宮殿は石造りですから外ほど暑くありませんよ、と彼はいつもの柔和な微笑みを浮かべていた。 「ありがとうございます。でもわたしも出来る限り頑張りますね」 「その気持ちだけで嬉しいですが、躰に差し支えない程度にしてくださいね」 「それはセシルさんもですよ。流石に日本のマンションでエアコン付けないのはダメだと思います。幾らセシルさんが平気でもです」   わたしがコップに注いだ麦茶を、セシルさんは苦笑いしながら受け取ってくれた。渡した時に触れた手はまだ少し熱い。わたしは麦茶をしまうついでに、買っていたアイスクリームを二つ取り出した。

セシ春多分体感温度かなり違いそうなので。

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