君と何よりも甘い祈りを

 邪魔なものを取り去った時、そこにあった輝きはあの子そのものだった。ゆっくりと舌を這わせると蕩けるような甘みが広がる。僕の唾液を照り返して、滑らかな褐色が光った。 「綺麗だよ、セシル君……可愛いね…………」  宝石みたいなそれを口に含んで、転がすように舐めると僅かに戦慄いたような気がした。取り出しながら眺めていたけど、どんどん醜く歪んでいくから、名残を惜しみながら奥歯で噛み潰して呑み込む。灼けるような甘みが喉を過ぎていった。  僕は次の粒を手に取ってまたじっくりと視姦する。細く見えて豊満な線、暗い色に見えて豊かな色彩、若さが迸る張り、その上に白く散るホワイトは誰のものなのだろうか。考えるだけでたまらない。衝動のままに口に含むと、また脳の片隅を焦がすような甘みが僕を出迎えた。  それだけで極まりそうな興奮を覚えながら、僕は壁に貼られたポスターを網膜に焼き付ける。何よりも愛おしい、あの子。キラキラ輝く包み紙みたいな美しい瞳、スポットライトに妖しく照り返すチョコレート色の膚。考えただけでどうにかなりそうだ。  次の箱を手に取り、衣装のようなリボンを解く。現れたのは明るい褐色のミルクチョコレート。あの子の膚と同じ色。まるで僕の手に夢を収めたみたいで、僕は熱い息を吐いた。  何百分の一の大きさの膚を丁寧に撫でて、舐めて、愛する。どう反応してくれるだろうと思いながら。あの切ない声を出しながら悶えてくれるのか、それともあの柔らかい唇を噛み締めて健気に耐えるのか。細い腰を揺らして、甘えるように僕を見てくれるのか。  でもその幻想は長くは続かない。熱で溶けて見る影もなくなった砂糖の塊を僕は粗雑に口へ放り込んだ。カカオにむせ返るような臭いは、薄汚いカルキ臭ですっかり上塗りされている。どうしようもない虚しさに襲われて、僕は思わず舌打ちをした。それでも二月にはお菓子売り場へ足を運んでしまう。チョコレートの祭典、セシル君の膚が一番美しく映える季節には。嗚呼、こんな真似事ではなくて、直接腕に抱いて味わえたらどれだけ幸せだろう。叶うはずもない願いを抱えながら、僕は空になった箱をゴミ箱に投げ捨てた。

バレンタイン売り場によくいる不審者の話。

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