私が好きな貴方

 全部、分かっている。  わたしが好きだと告げながらセシルさんが微笑む時、本当に胸が締め付けられる。普段浮かべているような微笑でも、お友達との間で見せる屈託のない笑い声でもない。わたしだけに見せてくれる少し照れたような優しい笑顔。それを独り占めしてしまう幸福と少しの罪悪感に胸がいっぱいになってしまって、わたしはいつもちょっとだけ躊躇ってからそれに答える。  頷いたり、手を握ったり、抱き締めたり、毎日繰り返していくうちにそれが当たり前になっていく。とても満ち足りている愛情を確かめ合う、そんなひととき。  だけど、わたしが一番好きなセシルさんの笑顔はもう少し違う時に見られるものだ。もちろんセシルさんには絶対に言わないけれど、多分セシルさんも気付いている。  それはライブが終わるその瞬間、会場から溢れ出す若草色の光に照らされる横顔。わたし達の愛が、そしてセシルさんの努力が祝福される時、その奇跡みたいな瞬間に浮かべる笑顔は何度見てもわたしの心を掴んで離さない。喜びと安堵と愛が入り混じったその顔はどんな言葉でも言い表せない。ただ、とても綺麗な笑顔だった。  もっと、もっとこの笑顔を見たい。彼を輝かせるような曲を書きたい。舞台裏からの光景を見る度にそんな気持ちが溢れて止まらなくなる。退場してきたセシルさんへスタッフに紛れて当たり障りの無いねぎらいの言葉をかけている時も、楽屋で自分の言葉で想いを伝え合う時も、人目を避けて家に戻る時も、ずっと絶えずにわたしの心はセシルさんの笑顔と歌声で満ちている。  アイドルを一番輝かせる曲を書く、それが今も昔も変わらないわたしの夢。わたしが見たセシルさんの姿は、わたし自身の夢そのものなんだと改めて気付く。だから一番好きなんだろうな。  靴を脱ぐのももどかしくて、机に飛びつくようにして思い浮かんだメロディを書き連ねる時にわたしが願っているのは、もう一度あの笑顔を、今度はもっと素晴らしい形で見たいというただそれだけだった。

アイドルとしての愛島君こそ春歌ちゃんにとっての一番なんですよねって話。

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